トゥリオの故郷
剣竜狩り
「『剣竜』ですか?」
「ああ、
トゥリオが説明するには、
体長は成体で
「それを狩りに行こうっての?」
「そうだぜ。こんだけの腕自慢が揃ってんだ。問題無いだろ?」
「
地面を這う動物を殴るのは難しい。打ち下ろせば良いと思われるかもしれないが、打ち下ろした態勢というのは次の動作に移り難いのだ。
俊敏な相手だったり、複数相手だったりすれば決定的な隙になりかねない。そういう意味で
「その為のパーティーじゃねえか。カイのフォローを俺達でやればあとは一匹ずつ仕留めていけばいいだけだろ?」
「その通りだわ。でも無理に狩りに行かなきゃいけない相手とも思えないけど」
「こいつら湿原の覇者だけどな、ある程度狩ってやらんと溢れてきやがるんだ。そうすりゃ近隣はパニック状態になる。だからフリギアの冒険者ギルドじゃ狩猟推奨魔獣に指定されてる」
トゥリオは短い付き合いながら、この二人は魔獣だからってめったやたらと狩りに行かないんだと悟っていた。
「それに
彼が言うには、
討伐部位でもある剣状尾部は金属素材として言うまでもなく有用であるし、その肉は珍重されるほどの美味だと言われる。更にその皮は魔法耐性の高い性質をしており、フリギアでは高級革防具素材の代表格だというのだ。
「カイは特にそういう…」
「行こうか!」
その後の台詞は必要ないとばかりに遮ってくるカイの現金さにチャムは笑い声をたてるのだった。
◇ ◇ ◇
湿原地帯はポツリポツリと立つ低木に、まばらに生える雑草と一部に群生する単葉植物の茂みくらいで極めて見通しはいい。
足元は確かに湿っぽいが、
「ほい、もう一丁あがり!」
「こっちは押さえとくからさっさと始末してくれよ」
「了解」
カイからみるとコモドドラゴンみたいな風貌をした
とても這いずりものとは思えない速度で襲ってくる。だが確かに魔法の通りは悪いし動作は機敏だとしても、刃物は通るので当てられさえすれば討伐に困るような魔獣ではなかった。
通説通り、上級冒険者の登竜門としては適当な対象だろう。
「でもこれ、殴っても効かないんだけど?」
「みたいねー。カイは今回お休みかしら」
「いや、別に
最初に襲ってきた
当然それほど効いてもいない。弾き飛ばされただけで、すぐさま態勢を整えて再び襲い掛かって来た。
それでは堪ったものではないと
それでも彼らは非常にタフネスで、体が傷ついたくらいでは弱ってもくれず、頭を二つにするか首を落とすかぐらいしなければ仕留めきれない。こうまで相性の悪い相手ともなるとカイのストレスは鰻上りなのだった。
その時、少し離れた場所で見守っていたリドやパープル達が、ちーちーキューキューと騒ぎ出した。何事かと目線を上げたトゥリオの目に見えてはならないようなものが飛び込んでくる。
「何だありゃ!?」
灰色の小山が地響きを立てながら結構な速度で近付いてきている。ただ、その小山には、ずらりと牙が並んだ口と剣状の尻尾が付いている。
「変異体よ!」
「おいおい、マジか。あんなのどうしろってんだよ!」
体長は
「ヤバい。遊んでられない」
チャムは一気に加速して近くにいた二匹の
濡れた枯草を掻き散らしながら近付いてくる巨体。チャムはその前に身を晒すと、直前でひるがえって横に回り込み、首筋に斬撃を放った。
「にゃ ──── !」
確実に首に入ったはずの剣はボウンと弾かれて、その反動で後ろにすっ転ぶ。
すぐさま飛び込んだカイが抱き上げて距離を取ったので事無きを得たが、先まで居た空間は巨大
カイが
「なあ、こんなのに盾で向かったって撥ね飛ばされるだけだぜ…」
もちろん、トゥリオの剣の腕では傷一つ付けられないだろう。
「逃げるよ」
「よね?」
「だな」
意見は簡単に一致をみる。
見過ごせない脅威と言っても限界はある。これはさっさと冒険者ギルドに通報して部隊編成で討伐するような相手だ。
速やかに逃げに掛かる。パープル達も踵を返して逃げ始めているが、追いついたとしても騎乗している時間もない。ただひすたらにひたむきに逃げの一手だ。
カイが僅かばかりの足留めに
ところが次の瞬間、急にその足音が止んだ。
振り向いたチャムの目に入ったのはとんでもない状況だった。
「なあっ!!」
「そりゃ無茶過ぎる!」
巨大
(に・げ・て!)
カイの唇がそう動く。しかし、味方を捨てて逃げられるようなメンバーはここにはいなかった。
すぐに反撃に移ろうと構えを取るが、誰も有効な攻撃手段を見出せないでいる。
「んぐぐぐぐぐ…」
攻撃中も気合の一声どころか唸り声も上げないカイの口から苦鳴が漏れている。異常事態と分かっても足が前に出ない。
刹那を置いて変化が表れた。
マルチガントレットが触れている所から霜が付いてきている。それが徐々に広がっていき上顎を覆うくらいまで広がる。
カイが冷却魔法を使っているのだ。いかな五大属性が苦手な彼でも、触れた状態で内部に魔法の影響を及ぼすくらいは出来るらしい。
「踏ん張って、カイ! もうちょっとよ!」
「頭を凍らせりゃそんな化け物だって生きていられないはずだ。気張れ!」
「ちちゅ ──── !」
「キュ ── !」
「キュッキュ ──── !」
それぞれに応援の声が飛ぶ。
霜の範囲は遅々とであるが確実に広がりを見せている。首にまで達したところで、カイの顔の赤みが薄れてきた。重い音を立てて巨体が地に落ちる。
つんのめるように
トゥリオもホッとした顔をしてポンポンと肩を叩く。
「はー、死ぬかと思った」
「普通は死んでるわよ」
「絵になる光景だったぜ」
トゥリオが悪戯気にニヤリと笑って言う。そんな冗談もこの状況を切り抜けたから言えるのだ。
パープル達が勝利に鳴き騒ぐ中、柔らかい身体の感触を楽しんで生を実感するカイだった。
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