勇者パーティーvs魔闘拳士パーティー(3)
魔法合戦は終わりを見せないでいる。観覧席側から見ればそれは派手で見応えがある対戦なのだが、本人達にしてみれば目に見えない細かな駆け引きをしていたりするのだ。
「
「
複数起動を合わせてくる方向性は変わっていないようだ。しかし、問題はそこではない。
相手の獣人魔法士はこちらが魔法を放ったと同時に同属性の魔法を放ってくる。これは明らかに妙だ。構成を編んでいる時間は無い筈。何らかの絡繰りが有ると思ったほうがいい。
更に大きな問題は、これが四属性目だと言う事だ。確か魔闘拳士が、彼女も光属性魔法が使えると言っていた。それを思い出してカシジャナンは背筋が凍る。
(五属性だと? 僕と同等だと言うのか!?)
それは驕りではない。
彼はケントが勇者として目覚めてから新たに二属性、風属性と光属性が扱えるようになった。それまでは三属性しか使えなかったのだ。チャムに聞いた、例の経路の力によってその二属性を得たのだとしたら、彼女はどうなのか?
個人の才能によって五属性もの魔法を扱えるようになったのだとしたら、とんでもない事だ。彼女が獣人である事も加味すれば、それは奇跡に近い。
(よく付いてくる。だが、こんな消耗戦、見出す活路も無い筈)
それでも動揺を見せず、冷静に相手を分析するカシジャナン。
一見してフィノのほうが上回っているように思えるが、その実駆け引きでは勝っていると思っている。消耗魔力を抑えて相手の手の内を曝させ、魔力も使わせている。それに勘付いて動揺した時が狙い目だ。
「
「
トゥリオは難無く防ぐが、ティルトの負担は大きい。大盾に被弾し光球が弾けて撒き散らされる光熱波が
「おい、いい加減に……!」
「任せろ。見えたぞ。もう少しだ」
堪らず声を上げるティルトに、カシジャナンは小声で返しつつ
(今回は属性しか合わせられなかった。威力を高めて早めに押し切ろうとしているぞ)
フィノにしてみれば、会得したばかりの光属性に手持ちのバリエーションを欠いただけなのだが、その威力が高かった分だけカシジャナンに誤解させるに十分だったと言えよう。
(威力を高めていけば焦りを誘える。どこまで保つかな?)
カシジャナンは仕掛けを一段階上げる決断をする。獣人少女を崩しに掛かったのだ。
「
空中に現れた円盤からは細かな無数の熱線が降り注ぐ。対応しなければ大火傷を負う可能性が有るが、盾士が防ぐだろう。
フィノが追随してくると思いきや、彼女はロッドの持ち手の上をなぞる。そのまま掲げると彼らの頭上に光る傘が現れた。熱線はその傘に当たると、湯気のような黄色い煙を立て形を失っていく。
「魔力還元だと!?」
「んふふー、カイさんに仕込んでおいてもらって正解でしたぁ」
魔法士ならばその黄色い煙が空中に漂い出した濃い魔力だと分かる。
「じゃあ、ここから飛ばしていきますよぅ!
「なにっ!」
「あちっ! くそっ!」
苦鳴を上げるティルトの為に風の結界でも生み出そうとしていたカシジャナンは、フィノの瞳が挑戦的に輝いているのに気付く。
(まさか…。まだ何か?)
彼の懸念は現実となって襲い来る。
「
「なっ! 六属性目だとー! 無茶だ!」
両者の間の上空には岩石で出来た円錐が多数発現し、カシジャナン達のほうを指向している。それは明らかに地属性の魔法だった。
「
堪らず防御魔法を放つと、猛スピードで撃ち出された円錐はその途上で形を失い、二人にはパラパラと砂を被る羽目になる。それは魔力で固められた円錐が分解された成れの果てだった。
燃え尽きて
「ろく、ぞく、せい……」
地水火風雷の五大属性全て扱えれば不世出の天才、魔法界の英雄と称される事は間違いない。獣人少女はその上を行って六つもの属性を発現させた。魂が抜けそうになるほどの衝撃を与えるに相応しい快挙である。
(なぜ……、なぜこれほどの魔法士が埋もれている?)
この事実が露わになれば、地を駆けるが如く知れ渡っても不思議でない。しかし、そんな噂は耳にした事が無い。
(埋もれているんじゃない。それ程の魔法士が
彼の中で何かがむくりと首をもたげる。それは勇者パーティーの魔法士だという矜持だ。
(素質では負けを認めざるを得ない。応用力もあるみたいだ。だからといって全てで負けた訳じゃない!)
二回戦の戦い方を見れば制御能力も高く、魔法的な総合力はかなり有ると思えた。
(場数も踏んでいるし難しい局面も切り抜けてきた。魔法技術で劣るとは思えない。越えてみせる!)
気を取り直して、フィノの様子を窺うカシジャナン。狙うべきは隙ではなく、機だ。
「
フィノが
光翼刃は回転を始めると、カシジャナンとティルトの周りを舞い踊る。迫った刃をティルトが大盾で受けると、金属を削る耳障りな音が鳴り響き、それが物理攻撃力が有るものだと物語った。
「少し耐えてくれ、ティルト!」
「おう!」
周囲を巡る光る刃から意識を外し、魔法演算領域のかなりの部分を使って複雑な構成を編み始める。何とか立ち回りつつ、細かな傷を負って小さく唸るティルトに謝りながら構成をロッドに流し込んだ。
「
紫電の砲弾が撃ち出され、相手盾士トゥリオの大盾に直撃する。彼は一部を地に付けて雷撃を逃がしているが威力は持続し、盾を圧し続けていた。
(それを押さえ切るのが精一杯だろ!?)
「
美丈夫と獣人少女の横合いには、二人を気絶させるに足る爆発力を秘めた泡が出現したのだった。
◇ ◇ ◇
勇者ケントの剛剣は完全に容赦が無くなっている。
しかし、その剣は途中で軌道を変え大地を刻む。何度振り下ろそうがチャムの体を掠りもしなければ、横薙ぎは空を刻むばかりだ。
(重くて鋭い剣だけれど、このタイプの真っ直ぐな剛剣は
その重さ故に単純に弾くのは難しいが、刃筋を合わせて十分に力を伝えられれば押し退ける事は出来る。チャムの側でもそれなりの力が必要だが、剛剣故に回転力には劣るのだ。今のところは斬撃の処理に手が回らなくなる事は無い。
「それが
ケントは一度見ているはず。それでも傍から見るのと実際に斬り込むのでは勝手が違うだろう。そう容易にこの技を破れるとは思えない。
「その一端に過ぎないわ。否定したいなら破って見せなさい」
爛々と燃える勇者の瞳が、彼の内なる闘志を表しているようだった。
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