ラダルフィーへの攻勢
回復手段を手に入れたガラハ達は、攻撃に思い切りが良くなって強くなったように感じる。連携の変化には不慣れなこともあって幾分ぎこちなさが認められるが、それはおいおい上達していく事だろう。彼らとて完成されたパーティーではない。まだまだの多くの伸びしろを残している。
ガラハパーティーはやはり王都ラダルフィーを避けて東よりに南下してきており、合流した九人は今度は西周りに冒険者ギルドの依頼掲示板を攻略していく。
それぞれのパーティーでの戦闘もスムーズにはなっているが、メンバー入れ替えを行っての討伐依頼に挑戦などもやっている。それはそれぞれの役割分担を明確にする訓練にもなって、本来のメンバーでの連携も円滑に決まるようになって、明らかに熟練度は増していった。
その過程で依頼の達成も速やかになって、王国の体制に掛かる内圧も上がっていく。少しずつではあるが、それは如実に感じられていた。
◇ ◇ ◇
『謁見の間』でハイハダルは報告を受けていた。
「……という訳で、情報が錯綜していたのは、二つのパーティーが同時に同じ動きをしていた為に起こったものと考えられます。その二つのパーティーが連携していたかはまだ判然といたしませんが、一つはイーサル王国経由で帝国から入ってきたと思われます」
背後のほうが先に騒めいた。口々に「ロードナック帝国か」「帝国め、とうとう……」などと言い立てている。
「間違いなく帝国からか?」
「男二人女三人で、五人全員が黒髪だとあります」
「冒険者に扮した間者の可能性は拭えない。行方を追えるか?」
ハイハダルは、自分達がやっている事は棚に上げて顰め面を見せている。
「それはおそらく可能ですが、捕らえる事など出来ません。その者らは何ら罪を犯しておりませんから」
「陛下の御意だぞ! 捕らえろと言えば捕らえろ!」
事務官は溜息しか出ない。
罪無き者をただ怪しいだけで捕らえ始めたら、誰もラダルフィーにはやって来なくなる。人の動きが無くなれば経済的には大打撃を受ける。その上、情報も入って来なくなり国際的に孤立してしまう。早晩、国としての機能を失っていくだろう。
そんな事さえも解らない取り巻きしかいない王に仕えるのもいよいよ潮時かと考える。
「そうお考えであれば勅命をお下しください」
「ふむ、考えておく。もう一組は何だった?」
「こちらは全く不明です。四人組の一人は黒髪らしいですが、その他はバラバラで、何より南から入ってきたと言う情報です」
証言情報もその程度しかない。
「メルクトゥーだと!? あの国に、他国にちょっかいを掛ける余裕など無い筈だぞ?」
「そうだ。そう時間も掛からず我が国の版図になる場所だ。そんな事は有り得ない!」
そう考えるのは浅知恵だとしか思えない。
前線で思うような展開を得られない時は、どう考えると彼らは言うのだろう。自分なら後方攪乱も選択肢の一つに十分考えられる。
それで敵の足を鈍らせる事が出来て、味方を立て直す時間が作れるなら喜んでやる。最も安上がりで、最も効果的な策だと言っても良い。
ただ、かなり優秀な手駒が必要になる。旧い国ならそういった組織や手法があったとしても全く変な話ではない。
「連携は確認出来なくとも連動している以上、何らかの意図が有ると考えるべきか?」
「俺が出向いて倒してくる。殺さず退去させる」
デュナークのその言葉を鵜呑みにするのは少々問題がある。だが、煩い虫が飛び回っているのは気になる。ハイハダルとしては退去させるよりは、捕らえてどこの手の者かは解明しておきたい。その情報次第では、今進めている侵攻計画を早める必要も出てくると考えている。
こういう局面で冒険者ギルドが非協力的なのが痛い。過去の滞在登録だけでも確認出来れば、どこの意図による者かくらいは推測可能なのに、それさえ難しい。犯罪者以外の個人情報の開示を拒否して来るのだ。当然と言えば当然のその反応が、ハイハダルにとっては面白くない。
冒険者の地位向上を掲げているのであり、それは冒険者ギルドの権威に繋がるのだから、多少の配慮が有ってもいいと彼は考える。しかし、ギルドにしてみればどれだけ抗議しようと冒険者の評判を落とす行動を止めようとしないラダルフィー体制の要請など聞く義理は無い。嫌がらせではないが、この国でこそ正当な業務を遂行すべきだと冒険者ギルドは心掛けている。
「大変だ、兄貴! いや、陛下。もうそんなんどうでもいい! 大変なんだ!」
ハイハダルの弟分が
「何だ。騒がしいぞ」
「奴ら、攻めて来やがった!」
咎めるような言葉が飛ぶが、本人はそれどころでは無い台詞を吐いてくる。
「誰がだ!?」
「北の連中だ! 纏めて来やがった!」
この
◇ ◇ ◇
ラダルフィー国内の空気は変わりつつあるとは言え、地方に行けば彼らを見る目は冷たい。移動中の農村部では軒を借りる事は叶わず、九人での夜営が多くなっている。
そうなると不満が溜まってくるのがフィノだ。人目があるこの状況ではタブレットPCを貸してもらえない。ガラハ達はなぜ夕刻になると恨めしい目付きで見られるのか理由は解らないが、何も言ってこないでは応じようがない。そして彼女はその不満を食欲に振り向けてしまう。
「カイさん、早くはーやく焼いてくださいですぅ」
へばりついて揺するフィノに、カイは鷹揚に微笑んで金網を前にしている。
「もうちょっと待ってね。ほら、ふっくらしてきたよ」
「まだです。ちゃんと焦げ目まで付かないと香ばしさが足りないですぅ」
「はいはい、お願いだから待ち切れずにきな粉だけ舐めるのは止めようね?」
その様子は失笑を買っているのだが、彼女自身もう形振り構ってなど居られないようだ。
「あれ、何だ?」
「あれか? 餅って言うんだとさ。カイの両親の故郷で伝わっている食い方らしいぜ」
ガラハに問われたトゥリオは、カイの方便に合わせて話す。意識はしていないだろうが、全くの嘘でもない。
「もち? 聞いた事無いな」
「東方じゃどうなんだろうな。俺にはよく解らねえが」
「一地方の食べ方かもしれないし、違う名前で通っている可能性もあるわね」
チャムが上手にフォローしている。
「何だったら食べてみれば? 美味しいわよ。私達はオルク麦が手に入るようになってからは、こればっかりよ」
「そんなに美味しいの?」
オルディーナは乗ってきているし、チッタムは興味津々だ。
「オルク麦? え、これ
「うん? あ、そういえばそんな呼び方もあったわねえ」
商家の出であるペストレルは、東方各地の産品にも詳しい。オルク麦が一般的に『酒麦』と呼ばれているのを知っている。
「えー、これ酒麦なの? あれってお酒の原料だと思ってた」
「その通りですよ。普通は醸造酒や蒸留酒に加工して口にする物ですけど、直接食べる方法が有るとは私は聞いた事が有りません」
「でも美味しい」
チッタムはやっと焼き上がったお餅を、フィノと分け合って早くもモグモグしている。
「いや、待てよ。俺の故郷のほうじゃ、酒麦を食うぞ。子供のおやつだがな」
「そうねえ。あたしも子供の頃、よく食べたわ。砂糖を入れたり、スープで煮たりして」
ウィレンジーネは手渡された餅に嚙り付いた。
「うん、これって練り麦よねえ」
ガラハとウィレンジーネは、懐かしむようにその名を口にした。
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