特殊武装

 剣を贈ろうとと思ったのは、それまでの剣では岩石熊ロックベアに全く攻撃が通らなかったからだ。

 刃だけとはいえオリハルコンを融合させた今度の剣なら腕次第で斬れるだろう。しかしチャムの装備は剣だけではない。あまり積極的には利用していないが、バックラーも使用していた。そちらにも手を出すつもりだったカイは、別のミスリル塊を作業台に取り出す。


「まだ何か作るの?鞘も問題なさそうよ?」

「うん、盾も作るー」

「へ? 盾はあまり上手く使えてないから要らないわよ」

「物が合ってないからだから任せてよ」

 この上、まだ受け取るのは気後れするので理由をこじつけようとしたチャムだったが出鼻を挫かれた。


 今度はミスリルを紡錘形に厚さを揃えて広げ、背の部分を湾曲させる。大きさはチャムの前腕部の1.5倍くらいの長さ。

 一度脇に置いて、再びオリハルコンを取り出すと今度は極めて薄く伸ばしていく。それを盾本体に貼付けて融合させるとオリハルコンコーティング盾の出来上がりだ。

 普通なら後は腕通しと握りを付けて完成なのだがそれで終わらない。

 見慣れぬ箱を取り出すと盾裏に固定し、それを挟み込むように腕通しと握りが取り付けられる。盾表面には蔓草をモチーフにした精緻な彫刻が全面に施されて高級感を醸し出しているが、拳の上辺りの位置に一つ穴が開いている。


「これで完成。テストしてもらうからちょっと待ってね」

 言い置いて裏庭の端まで行くとマルチガントレットを装着して地面に手を翳し、横40メック50cm高さ80メック1m弱ほどの土壁を形成させる。

 戻ると盾の箱部分にまた別の箱を装着して差し出す。

弾箱カートリッジを装着して…、はい、着けてみて」

「こっちは見た目よりずいぶん軽いのね」

「結構防御力は高いはずだけど。じゃあ盾の前部をあの壁に向けて、親指のとこのトリガー…、うーん、押し具みたいなのを押してみて」

「…? 盾を土壁に向けてこれを押す?」

 途端に「パシッ!」と音がして土壁の表面で何かがはじける。チャムは盾を後ろに押し下げる力も感じていた。


「何々!?何なの?」

「あれ、見てみて」

 カイの指差す先を見ると土壁の一部が1メック1.2cm以上抉れていた。

 一瞬、何なのか解らなかったチャムだが、ちょっと考えて何かが飛んで土壁を抉ったのだろうと思いつく。

「その盾にはそういうギミックを仕込んだんだ。どう言えばいいかな。言うなれば『プレスガン』?」

「「『プレスガン』?」」

 聞き慣れない単語にチャムとタニアは首をひねっている。

「風魔法の応用で圧縮した空気を作ってそれで物を撃ち出す仕組み。撃ち出しているのはこれ」


 二人が覗き込むとカイの手の上には、尖りを切り落とした円錐の底面を繋ぎ合わせたような、4メック5cmほどの肌色の物体が乗っている。コロコロと転がすさまを見ているとそれほど重い物ではなさそうだ。


「木の粉を糊で固めてこんな形にしてあるんだ。これは撃ち出されて物に当ると砕けちゃう。でも十分に衝撃は伝えるから壁も抉れる。だから動物とか人間とかに当たるととっても痛い。小動物だと死んじゃうかも」

「……。これはそういう武器なのね。何となく仕組みは解ったわ」

 チャムは腕から外した盾をひねくり回してタニアと一緒に眺めているが、「危険だから穴は絶対に覗いちゃダメだからね」と言われて少し怖気づく。

「でも魔力は使わなかったわよ?」

弾箱カートリッジ…、さっき後から填めた箱にこの弾と魔力を供給するものも入ってるんだ。それで本体の空気圧縮刻印を動かしている」

「これは魔力容量の小さい人にも使えちゃうのね」

「だから取り扱いは要注意で」


 再び腕に装着し、土壁に向けて数発試し撃ちをするチャム。危険性は把握できたようだ。

「それにこんなのも有るから」

 次に取り出したのは金属製の弾だ。しかもこれは尖りの部分が切り落とされていない。

「今付けてるのは基本的に殺傷力の極めて低いもの。そしてこれは当てるとこに当てれば確実に殺せるもの」

 その言葉にタニアはゾクッとする。

 この二人が日常的に命のやり取りをする職業に就いているのを思い知らされた。

弾箱カートリッジ一個で20発。弾箱カートリッジ毎に弾を分けてあるから後から幾つか渡しておくよ。とりあえずこれも試しておいて」


 新しいカートリッジを渡して、換装手順もレクチャーしておく。タニアに目を移したカイは「僕らの後ろに居る事。絶対に前に出ちゃダメ」と戒める。

 チャムは慎重に土壁に向けて構えるとトリガーを押す。同じ「パシッ!」という軽い音がするが、今度は厚さ20メック24cmはある土壁の奥深くへ食い込んだ。


「これは極めて危険ね」

「うん、狩りの時くらいしか役に立たないほうがいいんだけどね。使い処は任せるけどよく考えて」

「気を付けるわ…」

「あ、タニアちゃんもこれの事は絶対に内緒ね。仕組みだけじゃなく、こう言う物が有るって事も話さないで欲しいな」

「うん、秘密にする。三人だけの秘密ね」

 ニッコリしたカイに頭を撫でられるととても嬉しそうな顔をするタニアだった。



「でもねぇ、あなた。何だったら武器屋にでもなったほうが儲かるんじゃないの?」

 出会ってから次々と目新しいものを見せつけられるチャムが軽く揶揄する。

「まるで僕が戦闘じゃまったく役に立たないような言われようですね」

「そんな事ないわよ。料理とか水浴びの時の見張りとか出番はいっぱいあるでしょ?」

「もらってくれるなら、主夫を目指しますけど?」

「一考の余地はあるわね」

「マジですか…」


 嬉しいようで嬉しくない冗談にカイは泣き笑いの顔をするしかなかった。

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