共闘(1)
「はぁ!? あのフーバの件もその組織が絡んでいるって言うの?」
ララミードが驚嘆する。
「その件は知っている訳ね」
「もちろん知ってるわよ! 魔闘拳士案件が終わったらフーバ消滅に魔王が絡んでいないか調査に向かう段取りだったの!」
「あら、そう。あれは純粋なる魔法であって魔王は関係ないわ」
勇者一行に敵の概要を説明する過程で
ラルカスタン公女の理解は実に捗っている。何しろその頭脳にはどんどんと補給が為されているからだ。喋るのとは別にずっと口を動かしている。青い甘味を消化するのに忙しいのだ。
大人びたミュルカでさえ今は顔を蕩けさせて、黙々とモノリコートを割っては口に運ぶ作業に従事している。
「お前ら、それがどんだけ貴重品か分かって食いまくってんだろうな?」
トゥリオは呆れ混じりに揶揄する。
「え? これ、そんなに高いの!」
「お高くはないですよぅ。でもぉ、期間限定生産品だからホルムトでも食通垂涎の的ですねぇ」
「だろうな。キハ村のモノリコに
原材料が厳選された逸品だ。
「縞々の
モノリコの収穫周期は
「そうよ! そんな貪るように食べるような品じゃないのよ!」
そう言うアヴィオニスも所作は上品であれど手は休めない。
「あたしがこれを輸入するのにどれだけホルツレイン王に懇願していると思っているの?」
「う……、申し訳ございません。大切に食べます。ほら、ケントも!」
「ん? どした? 美味いな、これ」
口元を青くして振り返る。全く聞いてはいない。
「はぁー……、神々の御心が知れない。勇者の選定基準に知性が欠けているのはどうにかならないものかしら?」
確かに対魔王に限られた戦士。一心不乱に邁進してくれなければならないだろう。しかし、そこを利用しようとするのも人間という生き物である。それは歴史が証明してしまっている。
「困ったものね」
そう言いつつチャムは灰色猫を窺う。
「神様だってそんなに器用じゃないかもしれないにゃ」
「言うわー」
「なんて不遜な! とても神使の王がいるパーティーメンバーとは思えませんね?」
勇者パーティーの魔法士カシジャナンは意外そうに
無論、彼とてその相手が神のひと柱などとは思っていないこその発言。麗人も咎め立てする訳にはいかない。ただ苦笑するしかなかった。
「まあまあ、そのくらいにしておいてください。十分に栄養補給は済んだでしょうから働いてもらいますからね?」
カイが一拍置くように言ってくる。
「で、あれは何だってんだ?」
「
「なるほど、こいつらから片付けないといけないんだな?」
さすがに残念な勇者も、感じられる気配に目元を鋭くしている。
「とりあえずは締まらないので口を拭いておきませんか?」
魔法士相手なら軍勢にも意味がある。絶対的物量には敵わない。数百の魔法士で十万の軍を打ち破るのは不可能。魔力には限りがある。
しかし、凄腕の暗殺者を軍勢の中に引き入れるのはいただけない。思うがままに攪乱されて被害ばかりを増やしてしまう恐れがある。
物量ではなく、戦技の時間の始まりだ。
◇ ◇ ◇
元はヘクセンベルテの村だったと思われる遺構に潜む敵の反応は百余り。
(護衛させるでもなく迎撃に出したという事は何らかの準備をしているって意味だね。時間稼ぎがしたい訳だ)
カイはそう見て取る。
それなら時間を与えたくないところだが、相手が
対処するのはカイ達四人に勇者王ザイードと勇者パーティー、総勢十名に絞る。軍には大盾を密に並べて取り逃がさないよう包囲に動いてもらう。エルフィン隊二千も分散配置して侵入を防ぐ。イグニスとアヴィオニスに全体の指揮を頼んだ。
(やっぱり警戒するか。まだ
少し距離があるが動く気配はない。
(でも、動いてもらうよ)
「マルチガントレット」
おそらく塔の基部だと思われる遺構に向けて
カイも
「
思い切り振り被った右拳を叩き込むと受けようとした剣は砕け散り、喉の下あたりに手首まで埋まる。足を掛けて引き抜き、水を生み出しながら払うと桃色に染まった水滴が飛び散り爪は銀色を取り戻す。
血のぬめりや脂で斬れ味が落ちては困る。ましてやこんな敵の血で汚しておくほど自分の拳は安くない。力任せに叩き潰すつもりで握り直した。
少数で仕掛ける愚を覚ったか、青年の周りに集まってくる間諜達。好都合とばかりに、親指を折り畳んで四指を尖らせた右の貫手で一人の胸の中央を貫く。左手は横に払い、もう一人の腿を斬り裂くと前傾になった相手の後頭部を掴み、全力で膝に叩き付ける。頭の潰れる異音にも耳を貸さず、邪魔そうに振り払って後ろに向かって
赤い飛沫を噴かせる男を蹴り飛ばし、迫る二人を出力を上げた
一連の攻撃は数呼吸の間に行われている。圧倒的な速度の前に、夜の眷属といえど一方的に蹂躙され続けていた。
それでも彼は止まらない。全く容赦するつもりもないが、それでも
銀爪で斜めに深く掻き切る。えぐれた傷は出血を早め、容易に命を奪うだろう。爪を振るついで振り下ろされる小剣を折り砕き、踏み込んで首を薙ぎ払う。肘を入れて胴体を吹き飛ばすと、跳ね上げた踵が後ろの敵の顎を捉える。反動で落ちてくる頭部に真上から本気の拳を振り下ろす。
後頭部を破砕しながら大地に打ち付けられた右腕は肘まで埋まっている。それで身動き取れないと判断したのか、一斉に襲い掛かってきた。
しかし、地中で作動させたマルチガントレットが
着地して伏せる青年の黒瞳は青白い光を揺らめかせ、口元からは獣の吐息が
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