共闘(2)
(こんな粗い戦い方をする人じゃないのに)
剣を振るいつつチャムは視界に収まるカイの戦いを危ぶんでいた。
武威では圧倒している。傷を負う心配もない。
しかし、普段はもっと巧みな戦い方をする。直接拳を振るうが故に暴力的な印象が勝って優美と評されるのは難しいが、攻防が一連の流れを生む戦技を麗人は美しいと感じていた。
(彼の内で荒れ狂う力が表に漏れているんだわ。そしてあまり抑えるつもりもない)
猛々しい意思が顕現していると彼女は思う。
暴力への理性を怒りで焼き尽くされた過去を持つ男は、怒りで存在の格を上げてきた。それが最後の段階に至りつつあるような気がして彼女は怖ろしいのだ。
あと一息で青年は人の領分を超えていきそうな感じがしてならない。自身が原因である自覚も有るだけに止めなくてはいけないと思うのだが、どうすれば良いのか分からない。
(私はあの人の進化に追い付けない)
それが悲しかった。
チャムの心中に関係なく
盾内蔵剣まで屈指して間合いの中を厚くし、プレスガンの弾も加減せずに使って寄せ付けないよう動いていた。味方も多い。選択肢もそれだけ豊富になる。トゥリオの大盾を背中に感じつつ、死角を潰すように立ち回る。
「悪ぃ。フィノを頼む」
ところがその当人がとんでもない事を言い出した。
「ちょっと暴れてくる」
「良いですよぅ。頑張ってきてくださいねぇ」
「おう、任せろ」
獣人魔法士までもが銃器型プレスガンを取り出して、防備を固めて送り出そうとしている。
「え? ちょっと待ちなさい!」
「
「おおぁ ── ! どけ ── !」
気合いを放ちつつ突き進む。トゥリオの突進は想定外だったのか阻む動きも少ない。
「そこを動くなー! ぶった斬ってやるー!」
吠え声や形相とは違い、彼の大剣は軽やかに剣閃を描く。正面に来た二人の黒装束の左側を盾で押しやると、切っ先は既に右の腰近くまで伸びている。咄嗟に躱そうと後ろに跳ねるが、そこから更に踏み出した足を滑らせて間合いを広げる。それにも反応して小剣で受けに回るが、跳ね上がった刃は剣もろとも黒装束を両断。
その間に左の敵は上がった大盾の下に忍び込んでいる。低く剣を振り出そうとしているが、お構いなしに盾の縁で背中を押し潰す。驚くほどの膂力に大地に押し付けられた黒装束は背中に大剣を突き立てられて事切れた。
次々と現れる黒装束をことごとく撃破していき、後方から指示を送りながら魔法で援護していた
「手前らの所為でこの国は! あいつは死ななきゃならなかったー!」
その時には大男は目前まで迫っている。
「落とし前付けてやる! 命であがなえー!」
「ひぃっ! ぎゃっ!」
悲鳴を上げる間もなく首が宙を飛ぶ。
魔法士の一団に斬り込んだトゥリオはまさに暴れ回っていた。
(何て強引な事してんのよ、あいつは!)
魔法士を放り出して
(何なの、この頑張っていらっしゃい的な若奥様風の反応! 二人はこの
そんな事を感じながらもチャムは飛来する投擲武器を斬り払い、盾で弾きながら敵の身体に鉄弾を送り込んでいく。彼女は十分に盾の役目も担っていた。
四人は暴風となって
◇ ◇ ◇
実行部隊だと告げられた黒装束は、聖剣ファルナル・ギルゼの起こす剣風にも僅かも怯まず詰め寄せてくる。
(何だ、この連中。下手な魔獣より厄介じゃないか。あいつ、ずっとこんなのと戦い続けてやがるのか?)
勇者ケントは驚きを禁じ得ない。
一撃の強さも武器の性能も飛び抜けてはいない。投擲武器も聖剣の腹で弾いている。実際に何名かは屠った。
しかし、これが夜であれば事情が異なるだろう。夜陰に紛れて迫る鋭い攻撃は油断ならない。投擲も非常に見えにくいはず。
これが集団で来るとなると脅威に他ならない。半ば勘で戦わなければならなくなる。
(偉そうに言ってるだけじゃなくて、こんな現実とも戦っていたのかよ? 差を付けられているみたいで面白くない!)
奥歯を噛み締める。勇者だ何だと持て囃されているが、人族社会から距離を置けば自分の成長は望めないような気がしてきた。
「みんな! 全力で行ってくれ! これは本当の脅威だ!」
ケントは仲間に呼び掛ける。
「言われなくても全力! こいつら手強い!」
「堪らんぜ。すばしっこくて」
「そうそう、こういう輩は加減しちゃダメだよ。そこを突いてくるからね」
ララミードやティルトは苦戦しているようだ。ミュルカも経験からの助言を送ってくる。
「魔法は牽制にしかならないから、散らしているうちに仕留めていってくれ」
「大きいのは食らってくれそうにないな! 数を頼むぜ!」
連携には問題無いが、思うように減らせていないのも事実である。
光の尾を引いて飛んでくる投擲武器を、引き起こした聖剣の腹で逸らす。その間に右足に溜めを作って大地を弾けさせるほどの踏み込みで一気に加速。進路上から身を躱そうとする黒装束を長い剣身で横薙ぎにする。
片手ではとても振れないような長大な剣だが、重量操作で右腕一本で振り上げてから左手を柄尻に掛け、思いっ切り引き込む。すると、
この目に見えない攻撃は有効で、状況を見ては多用している。それを見た仲間もケントの周囲に敵を集めるように動いていた。
その戦法で数を減らしていると、討ち漏らしを別の聖剣が斬り捨てる。持ち主のザイードがケントの横に並ぶように構えた。
「さすがに現役は存分に使う」
口の端を少しだけ上げて笑う。
「勇者王こそ。剣技ではまだ及ばないかもね」
「そうか? ならばあれは格が違うか?」
「え?」
視線の先を追えば、四本の爪痕を刻まれた敵が宙を舞う。ガントレットを向けられた二人が頭を揺らして崩れたと思えば、別の二人が頭を掴まれ叩き付けられる。果実のように潰れた頭蓋を放り捨て、両手の掌底突きを決めると相手は
魔法で生み出した水を纏わせた腕を横に払えば、また銀爪が
「うわお! ありゃ、凄まじいねぇ」
凄惨とも例えられる光景にミュルカも感嘆を漏らす。
「そんな生易しいものじゃないでしょ? まるで獰猛な魔獣を解き放ったみたいじゃない」
「猛々しい魂の化身だ。人の身で対するには少々無理があろう」
「あいつ、何かが外れてる……」
武芸大会では一試合だけ本性を見せたと思っていたが、それは片鱗に過ぎなかったようだ。今、目の前にいる凶暴な獣が魔闘拳士なのだと実感する。
気付けば、残敵も残り少なくなってきていた。
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