魔法士のロッド
翌朝、定例の鍛錬を行った後、予定通り男子部屋でロッド製作が始まる。
まず、カイが取り出したのは大型
後はロッド素材としては定番中の定番、ミスリル銀。この二つが主たる材料となってロッドを制作する。
◇ ◇ ◇
魔法士は基本的にロッドを使用する。
そのロッドは一般に魔石と魔力伝導性の高い本体素材で構成される。なぜ、魔法士はロッドを使用するのか? それは魔法士がロッドを使用すれば魔法の威力が上がり、発現難易度が下がるからだ。
このロッドが使われるようになった経緯は、研究結果からではなく経験から生まれ出た物なのだ。
最初は魔石を握って魔法を使用すると威力が上がると気付いた者がいた。
次にその魔石の保持を簡易にするために、棒状の物に取り付けられるようになった。
更にその棒状のロッド本体に魔力伝導性の高い物質を使用すると、より魔法の威力が上がる事に気付いた者がいた。そんなふうに段階的にロッドは発展してきた歴史を持つ。
その理由を解明しようとする研究者は多い。しかし、研究結果は諸説紛々で統一見解は未だ無い。
まず魔力というものは何かとカイは思った。
それは体内の魔力を周囲の者が感じられたり、空間を伝播したりと、何かと「波」に似た性質を感じさせる。しかし、脳神経細胞で形作られる魔力回路や水晶表面に構成される魔力回路を循環する形で保持される電子的性質も持つ。
波の性質のうち、前者である「周囲の者が感じられる」というのは電磁誘導磁界のようなものだと考えられる。後者の「空間を伝播する」というのは正に電波的な性質だ。
無論、導体ではない水晶に回路が構成されたり、銅の魔力伝導性があまり高くない事から電子の一形態ではないのは解る。これらから、魔力は電子に近い性質を持つ、新たな素粒子の一種だと考えたほうがいいだろう。
それでは、なぜロッドを使用すると魔法の威力が上がるのだろうか?
魔力が電子的性質を持つとした時、ロッドを整流器と考えたらどうだろうかと彼は気付いた。
人体を魔力を発する
魔石に書き込まれ再言語化した魔法構成に注入される時、単に放散された魔力乱流よりはロッドで整流された魔力奔流のほうが、魔法の威力が上がり発現難易度が下がるのは当然ではないか? 理屈としては筋が通ると思う。
それならば、
その理論からカイが考えた理想のロッドは、高品位魔石を用い、最高魔力伝導性を誇るミスリル銀で作られたロッドになり、これは一般常識と完全に合致するのだ。
もちろん、カイの理論が絶対の真理とは言えない。
だが正解に近いところまでいっているのではないかとは思っていた。
◇ ◇ ◇
カイの知っているアニメやゲームだと魔法使いの持つロッドには宝石が付いていて、見た目も申し分ない。しかし、この世界で使われるロッドに付いているのは魔石であり、それは灰色の不透明な完全球体でもない石だ。
そこで見た目が落ちる分、彼はロッドの握り部分だけはグリップが良いように刻みは入れたものの、それ以外はピカピカに磨いて美観を整えた。
石突も花の蕾のようにする。魔石との接触面は性能が上がるように広めにして、オリハルコン製の幅広の三本の爪で魔石を固定するようにした。
幅広の爪の先のほうには鋭角突起付きのCの字の刻印をし、三本合わせてロッドの天頂部を上から見た時、
完成品を手にしたフィノは感動に打ち震えた。
外観も洗練されている上、極め付きはその性能だ。軽く魔力を通しただけでも、とんでもない反応が返ってくるのだ。これで魔法を放とうものなら、どれほどの高威力になる事だろう。
「カイさん、これ、凄過ぎますぅ」
「うん、だから凄い魔法で援護してね。期待してるよ。僕が楽したいから」
冗談交じりに応えるが、期待は事実だし、単独での攻撃防御能力も充実しただろう。魔法士としては規格外になってしまったかもしれない。
「そして、きっと値段付けたらもっと凄過ぎる事になると思いますぅ!」
「そうよね。荷が重いかしら」
「ちょっと…」
獣人少女は不安を隠せない。
「まあ、大事に使ってくれれば彼は満足するタイプだからそうしてあげて。物作りも趣味みたいなものだしね」
「そうだよ。素材だって全部が全部買った物でもないんだ。小まめに魔法で発掘しているから、その分はタダだよ」
「それでも大事にしますぅ!」
「実は一つ秘密にしていた事が有りますぅ」
フィノがかしこまって告げてくる。
「フィノもサーチ魔法が使えます。半径
「あら、それだと?」
「はい、フィノはあの時、皆さんが追ってきているのに気付いていたのですぅ。最近は悪目立ちするようになってきちゃって、冒険者ギルドに立ち寄ると追い掛けられたりする事が多くなってきて、あの時もそうなんだと思ってましたぁ」
「それで何か被害を受けてたの?」
実害があったとすれば冒険者ギルドの管理責任も問わなくてはならない。
「いえ、大概は興味本位で追ってくるだけですぐに立ち去っていました。そうじゃない時も狩場を出た所で勧誘を受ける程度だったんですぅ」
「御同類だと思われた訳ね」
「はい。でも、皆さんは違いました。フィノがピンチになったら、何の躊躇いもなく飛び込んできてくれました。助けてくれました。そしてフィノの前で守ってくれました。それが嬉しくて、本当は自分からパーティーに入れて欲しいって言わなきゃいけないのにその度胸がなくって」
「じゃあ、私達の勧誘は正解だったのね」
彼女はコクリと頷いて続ける。
「ここまで良くしてくださって、まだフィノからは何も返せてません。何でもしますから皆さんの本当の仲間にしてください。フィノからお願いします」
「本当の仲間だったら貸し借りとか無しよ。仲良くしましょ」
「はい!」
「良かったね。何でもしてくれるって、トゥリオ」
「いや、何でそこで俺に振るんだよ!」
一人だけご立腹です。
◇ ◇ ◇
カイはふと気付いてしまった。
可愛いワンコ娘が、半ば青い甘味に釣られるように仲間になってしまった。
考え足らずなサルっぽい巨漢が居る。
美しい
これはもしかして鬼退治でも出来るんじゃないかと思ってしまっても仕方ないんじゃなかろうか?
彼にとっての鬼がどこに居るのかは解らない。
いずれ出会う事になるのだろうか?
だが、とりあえずは北の大地に思いを巡らすのだった。
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