ディムザの決意
スリンバス平原会戦で魔闘拳士の使った戦術及び、大きな損失をこうむった大規模魔法の列挙などの作業をしていた第三皇子ディムザは、忍び入ってきた
「どういう事だ? 意味が分からないぞ?」
声量を押さえた言葉にピンと来ず、聞き返す。
「魔境山脈横断街道に面する宿場町にひそませていた
「それは間違いなく陛下に付いている
「間違いありません。その情報から宿場町の事件に辿り着きましたので」
「なぜそんな場所に
ディムザも当然の疑問を口にする。
「目的は違ったようです。公式には認められていませんが、ホルツレイン国内で大規模な戦闘があったらしいのです。大使はそれを匂わされて帰国の途に着いたと報告が」
「戦闘?
「その通りかと? 状況はそれを示唆しています」
(俺にも黙って軍を送り込んでいたのか! そりゃ、確かに方法は幾らでも思い付く。だが、今それをやってはいけない事ぐらい解っていると思っていたが、解っていなかったのか? ホルツレインとは和平合意をしたばかりなんだぞ!)
湧き上がってきた激情に、第三皇子は肘掛けに拳を打ち付ける。
(正気か、あの男は!?)
「どれだけ馬……! 言うまい。もう駄目だ。限界だ」
ぎりぎりで自重する。
「はい、せっかく殿下が骨折りをして事を東方内だけで済ませようとしているのに、あのお方は大陸中に火の手を上げようとしています。このままでは帝国は持たないでしょう」
「仕方ない。少し事を急ぐぞ。マンバスも入れて策を練る。良いな?」
「出来得る限りは協力させていただきます」
ディムザは外の衛士に副官を呼ぶように命じた。
◇ ◇ ◇
国王との私的な会談から数
「これが件の鹵獲品ですか?」
呼ばれたのは、秘密裏に集結していた帝国軍を撃破した時の戦利品の検分だった。
「魔法院も技士ギルドも、用途以上の事が分からないと言っている。魔法院が欲しがっているが、分解してしまってからでは遅いので君達に見てもらおうかと思ってな」
「魔法院に技士ギルド? そそういった類のものですか」
王太子クラインの説明を受けて、青年はその鹵獲品を見る。
外観はただの馬車である。しかし、帝国軍が死守しようとする様子が窺え、騎鳥兵団が奪取したのだそうだ。
焦げ跡が付いているのを指摘すると、それは帝国兵の仕業だという答えが返ってきた。奪い取られそうになると、火を点けて破壊しようとしたらしい。水系の魔法ですぐに消し止めて持ち帰ったと言う。
「あれ、これは?」
扉を開けて中を覗いたカイはすぐに疑問を口にする。
「あっ、冒険者徽章書換装置ですぅ。ん? ちょっと違いますかぁ?」
「ああ? 何でそんなもんが?」
フィノの好奇心が首をもたげ場所を譲ったが、そんな事を言われるとチャムは黙ってはいられない。それは元を質せばゼプルの生み出した技術品なのだから。
「どういう事? 見せて」
「似て非なるもの、ってところかな?」
「一部だけ切り出したみたいに見えますぅ」
青髪の美貌に場所を空けつつ、二人が説明を加えてくれる。
犬耳娘の補足は的を得ているように思える。
水晶板の表示部に、各種操作を行う刻印起動点。低い位置には文字入力用の起動点の列が並んでいる。標準的な魔力の持ち主なら操作は可能な装置だが、長時間の使用となると補給用魔石の準備も必要だろう。それらしき魔石も備えられている。
ただ、冒険者ギルドで見かけるものとの違いは、肝心の徽章書換を行う装置が付属していないところ。光魔法を用いて行われる書換部は、宝石類などの高価な部品が多いから省略されている訳ではないだろう。
「僕の勘が正しければ、これは通信装置だね」
一目で装置の特質を見抜いたわけではない。ただ、冒険者徽章書換装置の機能を考えた時、その操作部のみを備えている装置は通信を担っていると思ったからである。
そう思えるのは彼が地球の通信機器を知っているからであって、この世界の人間では推測に至るのは難しいと思える。
「通信装置!? 遠話器のような?」
チャムは目を丸くする。
「帝国はそんなものを開発していたって言うの?」
「いや、これは見ての通りの模倣品だろうね。フィノの言う通り通信機能のみを切り出した装置」
「構造を調べて作ったんですかぁ? でも、ギルドは技術をひた隠しにしている筈ですぅ。装置を渡したりはしませんよぅ?」
フィノの指摘はもっともである。
「流出したとしか思えない。方法は色々ある」
「色々とは?」
「確認してもらえます?」
クラインの質問に、彼は情報を求めた。
カイが確認を求めたのは冒険者ギルドの内実についてである。
ホルツレインでのギルドの窓口は商務大臣のダール候。どこまで知っているかは分からないが、訊くとなれば国内では最適の人物と言えよう。
「分かったぞ。廃棄担当者がいて、最終的にはギルド長が書面と部品を確認して手続き完了だそうだ」
青年が尋ねたのは書換装置が修理不可能なほどに故障した時の手続きである。ダール候は以前、興味本位で尋ねた事があって知っていたのだそうだ。
「細かく追跡されている訳ではないのですね? それだと、破壊部品の見掛けだけ装えば装置を横流し出来ます。廃棄担当者が買収されていればお終いです」
「く、帝国はそこまでしているのか。冒険者ギルドとの関係が壊れれば怖ろしい未来が待っているというのに」
「東方はこの辺りほどに魔獣が居ません。いざとなれば何とかなるくらいに思っているのですよ。事実、僕達の行動はギルドから漏れていた節がありました。なので、あまり立ち寄らないようにしていたんです」
買収による内通者の存在を匂わせる。厳格な組織運営を旨とする冒険者ギルドでそんなことが露見すれば当人はおろか、買収した側の国も責任を問われるだろう事は想像に難くない。
「この件の問題はそこではないのです」
ここに来てカイは初めて難しい顔をする。
「装置を模倣するだけでは、この通信装置を作る事は出来ません」
「それはどういう事だ?」
冒険者徽章書換装置の通信機能は、膨大な量のデータベースの読み出ししか出来ない。そのデータベースがどこにあるのかは、使っているギルドも把握していない。彼らは発掘品の複製品に改良を加えて使っているだけなのだ。複製は可能でも、詳細な仕組みまでは知らないまま使用している。
そのデータベースがどこに有るかカイは知っているが、それは話せない。
以前は神使の隠れ里に有ったのだが、今は赤燐宮の真の情報局、隠し階層に情報連結装置が有る。技術的には魔法的な情報体との連結とされているが、実は疑似的な形態形成場が構成されていて、そこに極めて大容量の情報が蓄積されている。
説明が続くほどに、チャムの顔色が変わっていくのをカイは気付いていた。
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