冒険者カイ

 さしあたって必要なのは資金と素材だ。技術のほうはそこそこ集まったと言っていい。

 頼ればグラウドは喜んで力になってくれるだろうが、それで自分の装備と言えるだろうか? それに独り立ちの手段も模索しておいたほうが良いような気もする。


「侯爵様、冒険者という職業があると小耳に挟んだのですが、それには特殊な技能や資格が必要なのでしょうか?」

「冒険者か。正直言ってあまり勧められんな。君くらい強ければやっていけるだろうが、粗野な者も多く、トラブルも絶えないようだ。しかし、屋敷に籠っているばかりでは気が滅入るのも解らんでもない。出口無き厄介事も抱えているしな。ふむ、城門通行証を用意させよう。少し遊んできなさい」

「ありがとうございます。心配かけない程度にやらせてもらいます」


そんな会話があって、少年は外に出る手段を得た。


   ◇      ◇      ◇


 冒険者ギルドの位置を訊いて登録まではとんとん拍子だった。

 門戸は広く、彼のような少年でも珍しくはないようだ。どうやら身分の無い者でも立身出世の第一歩になる間口でもあるらしい。


 真新しい白いメダルの付いた徽章を下げて街門に向かう。徽章は、紛失したり作りの良いものに変えようとすれば有料らしいが、最初は無料で交付された。

 徽章を掲げて街門をくぐる。通行手形であり身分証たりえるこの徽章は初めてこの異世界に自分の足で立っているような感じを与えて、カイを良い気分にさせる。ともあれ当面は稼ぎに走らなければならない。


 基本的に依頼をこなせば金が入ってくる仕組みだが、これには期間などの拘束もあってお手軽さに欠ける。なので近辺の草原や森をほっつき歩いて襲ってくる魔獣を狩り、素材を売り払って日銭を稼ぐ方向だ。

 冒険者ギルドで聞いた話では魔獣数量コントロールという意味で、魔獣討伐に関しては特に依頼を受けていなくても討伐証明部位を持ち帰れば見合った賞金が給付されるし、体内にある魔石も換金できる。

 ゲームのレベル上げじみた作業なのだが、こちらは命に関わるので気は抜けない。


 平原では小動物程度にしか出会えなかったので、森に入ってそこで広域サーチを掛ける。周囲に幾つかの反応はある。しかし、地中深くにも何らかの感触があったのが引っかかる。


(土中に潜むタイプの魔獣が居るのか?それにしちゃ深すぎるし)

 魔力の手を伸ばして接触させると帰ってきた反応は見知った組成。

(鉄だ。正確には鉄鉱石か)

 持ち上げられるか模索していると、引き上げる方法ではなく下から押し上げる感覚で操作したら回収できた。


 まだ精製はされていない鉄鉱石から鉄だけ「抽出」してみるとちょっぴりしか採れない。鉱脈から次々と回収・抽出を繰り返して纏まった量の入手に成功した。

 抽出後の鉱石、いやもはやただの石は処理に困るので地下に戻しておく。


(良かった。資金作りとはいえ動物・・の乱獲なんて本意じゃないし。しかしサーチの魔法に鉱物も掛かるとは)

 金属素材を欲しがっていたからか? 認識が大事だったり欲求に忠実だったり、魔法というのは脳内活動に密接に関係しているようだ。

(まあ、確かにそうでないと魔獣が魔法を使ってきたりしないか。あれはほとんど本能的な反応だろうからね)


 面白くなって移動しながら各所で主に地下に向かってサーチを集中してみる。

 鉄とか銅とか少々の金銀とか回収していると、しばらくして知らない反応が返ってくる。喜び勇んで取り出すと白銀の金属だがわずかに魔力を帯びている。


(ミスリル銀ってやつか? ファンタジー設定だと妖精が精製した銀だったはずだけど、天然鉱石で採れるって事は単に魔力で変質した銀って事か。もしかして銀に魔力を浴びせていたらミスリルに変化する?)


 とてつもない時間が掛かりそうで試す気にはなれなかった。

 それよりこうやって天然ものの回収に励んだほうが良い。時々出くわす魔獣を撃破しつつ森を彷徨い、ミスリルもそれなりの量を確保できた。


 そんな事をやっている内にいい時間になってしまったので帰る。

 位置は見失っているが多数の生命反応があるほうへ向かえばいい。そんな場所はホルムトしかないから。

 街門をくぐって冒険者ギルドで換金を済ませて城門もくぐる。屋敷に戻ると泥だらけの身体をクラレに見咎められて風呂場に追い立てられた。子供みたいな生活だ。


 そんな事を数陽数日繰り返すと、十分な量の金属素材とと資金が手に入った。

 エレノアの相手をさぼっていたので恨みがましい目で見られる。お茶会に付き合って、掘り出した宝石と貴金属で作った腕輪を渡すと機嫌はすぐに良くなる。


「これのために外に出ていたの?」

「ごめん、ついでなんだ。でも精魂込めて作ったから無下にしないでくれると嬉しいんだけど」

「もちろんよ。大切にするわ。嬉しい」


 腕に着けたそれを空に翳して、キラキラとした目で眺めている。エレノアには陽々ひび、色々な贈り物が届いているのだから、そんな貧相な装飾品などに拘らなくても良いもんだが、喜んでくれるならそれに越した事は無い。

 実はとある刻印を仕込んであるので常用してくれるといいのだが。



 材料は揃ったので、構想していたガントレットの制作に入る。

 テラスのテーブルに陣取ったエレノアの監視を受けつつ、庭に作業台を置いて素材を並べる。魔力の通りが良く刻印起動が楽になるので、ほぼミスリル製になる予定だ。


 筺体は内蔵ギミックの関係で小型化は難しい。

 レーザー管まで作る知識は無かったので、極めて複雑な刻印を用いて対物レーザー発振器を制作する。前方には風魔法「風撃ブラスト」を応用した衝撃波発生装置を配置。その中央に光魔法で光剣フォトンソード発生器も組み込む。

 ここは打撃にも用いる部分なので必要に応じてせり出す格納式にした。


 一番スペースを占めるのが光盾レストア発生器だ。

 これには変性魔法を特殊にアレンジした「レストア」という魔法を用いている。光盾に接触した魔法を瞬時に分析して分解、魔力に還元して放散するという代物だ。

 魔法の防御には「魔法散乱レジスト」という魔法が有るが、これは魔法の影響による変化は防げない。例えば炎の魔法攻撃そのものは防げても、その余波の熱気は多少漏れてくる。


 過去に犯罪者魔法士が包囲されたが、強力な魔法散乱レジスト使いで手が出せなかった事例が有るらしい。この時は周囲から炎の魔法を浴びせ続けて蒸し焼きにしたそうだ。

 そんな目に遭うはご免なので、効果範囲は狭いものの魔法そのものを無効化する光盾レストアを編み上げた。

 出来上がったマルチガントレットは腕の何倍もの太さがあるものになってしまったが、重さそのものも打撃の助けになるから良しとする。それを振り回せるよう鍛えればいいだけだ。

 この辺りの思考は彼も武芸者だと思わせる。


 こうして様々な対戦者に対応できる武装が完成したのだった。

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