幻惑の奇襲(1)
(しまった。
クオフは苦悩の度を深める。
変異種の
四十頭は越えようかという数の狼魔獣が包囲して戦っている。
それは山守の群れだ。
獣人族達が住む山々にはそれぞれ生態系が出来上がっているが、時々狂気に駆られたように暴れ出す魔獣も発生する。
無論獣人達も対応するが、そういう時に頼りになるのは、目の前の
山の防御機構のような存在だ。
(だが、人族の冒険者にとってはただの魔獣でしかない。倒されてしまう、どうすればいい?)
四人の冒険者には、
迷っているうちに、冒険者達は武器を取って前に出ようとしている。
声を上げようとした時に、気品を含みながらも強い姿勢を示すような声音が周囲に響き渡った。
「下がりなさい、狼達! あれは私達で始末します!」
◇ ◇ ◇
それを嘲笑うかのように変異種と通常種の
(いけない! このままじゃ被害ばかりが増えてしまう!)
そう考えたチャムはブルーを駆けさせたまま、大音声を放つ。
「下がりなさい、狼達! あれは私達で始末します!」
そう告げるとともに駆け込んだ青髪の美貌は、擦れ違い様に通常種の
(こいつら、思ったより厄介かも)
チャムは気を引き締めて睨み付けた。
(これは掛かっているわね?)
すぐさまそう判断したチャムは、
発生した
「ブルー!」
駆け寄ったセネル鳥が、鋭い
それで逃がしたりはしない。
ブルーが追撃を掛けると、歯を剥き出しにした
ずる賢さを見せる魔獣だが、そこはプレスガンの守備範囲。ところが、連射をその身に受けつつも突き進んでくる。捨て身の攻撃に踏み切ったようだ。
間合いを詰めた
「ジャギン!」
痙攣を起こした身体は、間を置かずくたりと地に倒れた。
「ブルー! 速やかに撤収!」
即座に反転した青いセネル鳥は、彼の後方へ下がる。
一人と一羽の耳には「マルチガントレット」と呟く声が入ってきた。
◇ ◇ ◇
トゥリオは大盾を掲げると、黄色いセネル鳥が付いて来ているのを確認しつつ、一匹の
「近いのと遠いのはどっちがいい?」
引き込むか、弾き飛ばすか、フィノに訊く。
使う魔法によって距離の取り方が変わってくるからだ。
「注意を引きつつ撥ね飛ばしてくださいですぅ!」
「おう、任せろ!」
大剣を引き抜いた赤毛の美丈夫は、自信ありげに口角を吊り上げる。
すぐに幻惑の薄闇が襲ってくるが、彼らにはあまり関係ない。基本的に後手の戦術だからだ。
まずは大盾で受けてからの対応になるのだが、幻惑を使った
「
フィノは、右手のロッドに必殺の魔法を待機させたまま、左手で指差して別の魔法を発現させるという離れ技をしてのける。
幻惑を用いられようと、サーチ魔法を起動させている彼女には死角はない。
「ヂイィッ!」
魔獣の上げた悲鳴に、トゥリオは即座に反応した。
「そこか!」
痛みで薄闇に同化させていた本体を現した
「このぉ!」
反転して大男に襲い掛かろうとした魔獣へ、跳ね上げた大剣の腹を打ち込み弾き飛ばした。
「おらぁっ!」
相当重量がある筈の相手が宙を飛ぶ。とんでもない膂力だった。
「
それは光属性への適性を上げる訓練を続けてきたフィノが、俊敏な敵に対して少ない魔力で連射の利く魔法をと会得したものだ。
それが、衝撃でまともに着地出来なかった
「よし! 退くぞ!」
トゥリオが首を巡らすと犬耳娘は首肯する。
「はい!」
「走れ、ブラック!」
駆け抜ける二人は、背中で「マルチガントレット」と呟く声を聞いた。
◇ ◇ ◇
「ちっちー!」
主人にひと声鳴いてリドは駆け降りる。
「気を付けてね?」
「ちゅい!」
走りながら
「ぢっぢー!」
挑戦状のように警戒音を叩き付けるが、
彼女が怖れず挑発するように尻尾をくいくいと動かすと、薄闇が周囲を覆う。敵の気配が拡散して、姿も確認し辛くなる。だが、リドはお構いなしに前肢で地をタンと叩き真空の刃を大量に発生させ、薄闇の中を飛び回らせた。
魔法の制御に関しては、魔獣として跳び抜けた感のある彼女の刃は隙間なく空間を斬り裂いて敵の身体を捉える。
「ヂッ!」
血飛沫を散らして姿を見せた
「ジャッ!」
低く駆けてくると、リドの喉首に向けて牙を閃かせた。
「ちちっ」
冷静にその様を見ていた彼女は、敵の眼前に大光量の球体を生み出した。
「ヂ ── !」
まさかリドが光の魔法まで扱えるとは思っていなかった相手は、完全に目をやられて蹲ると前肢で掻きむしる。眩んだまま不用意に立ち上がったところへ彼女は軽く尻尾を振り、生み出した刃で首を刎ねた。
崩れ落ちる音を後に身を翻したリドは、
「マルチガントレット」
銀爪が優しく頭を撫でる。
「ご苦労さま。後ろで待っておいで」
「ちゅ!」
「
言い付け通りに駆け出すと、カイの声が聞こえる。
「
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