ガラハの誤解
(ハイノービスにランクアップだって? こいつら、そんなもんか)
ガラハはその台詞に引っ掛かる。
正直、彼は幻滅した。志を同じくする者同士で集まれば依頼達成も早まると思っていたのだが、ハイノービスで喜んでいるようでは危なっかしくて一人で任せられる依頼は限定されてしまう。
(これは注意を与えて別行動したほうが良いか? 足手纏いを引き受けるほど俺達のパーティーも余裕は無い)
チャムとの戦闘にも分け入って正解だったと思う。装備品からして、実は高ランク冒険者で、邪魔してしまっただけかとも思っていた。
どうやら金持ちの道楽だったようだ。放っておけば彼女はやられてしまっていただろう。そう云えばどことなく気品がある。訳有りと思ったほうが良さそうだ。
「ん? どなた?」
同じ帝国人らしい黒髪の青年がチャムに問い掛けてきた。
「救援してもらったのよ。どうやら彼らもほぼ同じような事をやっているらしいわ」
「ありゃ。チャムは問題無い?」
「ちょっと消化不良?」
「解った。
「ありがとう。そうしてくれる?」
ガラハにはよく解らない会話が有ったが、青年は彼に視線を移す。
「初めまして、僕はカイと言います。貴方は?」
いきなり説教と言う訳にもいかず、それぞれ自己紹介していく。トゥリオという大柄な男も加わり、結構大所帯となってしまったので、チャムが河岸を変えないかと提案してきて皆が同意する。
「君達は出来れば今やっている事を止めたほうが良い。やるにしても街中で済む依頼に限定して、討伐系は避けるんだ」
近場の料理店の大テーブルを占拠した彼らだったが、いきなりペストレルが切り込んでいく。彼はガラハと同じ懸念を抱いたらしい。チャムのパーティーが危ない橋を渡っているとしか思えなかったようで、勢い込んで説得しようとしている。
「何だったら一緒に行動しよう。僕が依頼の割り振りを考えるから、出来れば従って欲しい」
「…………」
カイと名乗った青年は白けたような目付きをしてチャムに視線を移した。彼女は肩を竦めて見せる。
「話してないのよ、何にも」
「こう言っては何ですけど、正直余計なお世話ですね」
ペストレルに視線を戻したカイはバッサリと切り捨てた。
「何を言っているんだ、君は!?
「ヤバかったの?」
「じっくり攻めてたのよ。だってもし怪我でもしたら……」
「行かせないよ」
「でしょ?」
悩んでいた風な青年だったが、納得顔に変わった。
「ねえねえ、うちはガラハもそうだけどレンジーもトレルもハイスレイヤーなのよ。あたし達と居たら楽に戦えるから、ね?」
少し悪くなりつつある空気を感じてオルディーナは仲裁したいらしい。あまり傷付けないように下手に出ている。
「悪い事は言わないから、考えてくれ」
ガラハは流れに乗って彼らを突き放すのは諦めた。
「んぷ! あははは、ごめん。ごめんなさいね。悪かったわ」
「何が可笑しいんです?」
急に笑い出したチャムを、ペストレルは不機嫌そうに見つめる。
「私達をノービスランクくらいだと思っちゃったんでしょ? 違うのよ」
彼女が取り出した冒険者徽章を見てガラハは目を剥いた。その真ん中には黒いメダルが燦然と輝いている。
「な! ブラックメダル!」
ペストレルは椅子を鳴らして立ち上がり、逆にオルディーナはストンと腰を落とす。飲み物を口にしていたチッタムはコップを取り落として慌てて支え、ウィレンジーネは頭を抱えた。
「そいつは何の冗談だ」
ガラハは苛立ちを隠せず、攻めるような口調になってしまう。
「あの時、やられそうになっていた訳じゃないのか?」
「悪かったって言ってるでしょ? あれは掠り傷一つ負わないよう加減して戦ってたのよ。本気で踏み込めば首を落とせそうとは思ってたけど、爪の一つくらいは貰いそうだったし、毛皮にも傷を付けたくなかったのよ」
「何だそれは……」
「辛抱してくれよ、ガラハ。ちょっと事情が有んだよ。チャムは見ての通りリミットブレイカーだし、俺もフィノもハイスレイヤーだ。俺達は弱くはねえんだ」
そう言われても余計に混乱するばかりだ。話の主導権からして、カイがリーダー的役割を担っているのは解る。なのに彼だけ一般冒険者ランクなのには合点がいかない。
「つまり、君達のパーティーは頭脳役と実戦役で分けているのかい?」
「それもちょっと違う。そいつだって弱くはねえんだよ。ランクに興味ねえだけで」
ペストレルは、稀に見られる作戦参謀役が居るパーティーを示唆したが、それも否定されて理解が及ばなくなってしまう。
(ランクに興味が無いだって? 俺だってそう執着が有る訳じゃないが、冒険者には他に評価基準が無いだろうが)
ガラハには、同郷の青年の考えが読めない。
「
『倉庫』から一枚の依頼票を取り出したチャムは、それをヒラヒラさせる。
「
◇ ◇ ◇
翌朝、街門広場で合流する二つのパーティー。ガラハパーティーの
ガラハ達は、踏破性が高くてタフなセネル鳥が便利で使っているが、特に愛着は無いようだ。時折り、自分の騎鳥と言葉を交わす素振りを見せるカイ達を不審げに見ている。
「ねえねえ、フィノの得物は何?」
折に触れ、ガラハパーティーの女性陣はフィノに絡んでいきたがる。彼らにとって獣人は身近な存在らしい。
「フィノは、その……」
「どうしたの? どんなに変わった武器だって笑ったりしないから。あたしの知り合いだと弓専門の子とか居たし」
獣人の事情に精通している感じを見せる彼女らに、どうしても尻込みしてしまうフィノ。
「あまり褒められたものじゃないのは解っているわ。でも、連携とかの事が有るから良ければ教えてくれない?」
「はい。あの……」
向き合って理由を説明してくれるウィレンジーネに、答えないわけにはいかない空気になる。これはチャムもトゥリオもフォローはし難い。
「フィノは魔法士です」
「「「え゛!?」」」
知っているなら当然の反応はどうしようもない。
「彼女は極めて優秀な魔法士ですよ。僕達の主火力です」
「本当なんですか?」
自身も魔法士であるペストレルはなかなか信じ難いようである。人族でも魔法士で一線級冒険者になるのはかなりの才能を必要とする。
「そんな事言っていたら後悔しますよ」
「う……」
一瞬、得も言われぬ迫力を見せたカイに口篭もってしまう。
「東方には、獣人族が大勢住んでいるのですか?」
「あれ、君も帝国人なんじゃなかったのかい?」
カイはいつもの方便を披露する。
「そうだったのか。なら知らなくても仕方ないですね。帝国にも獣人は多いですよ。色んな分野で活躍していて、帝国貴族に列せられている方も居るし」
「おや? そこまでですか」
「さすがに
それを聞いてカイはフィノに目線で窺うと、彼女は本当に嬉しそうな顔をしていた。東方にも
東方を訪れるのが楽しみになった四人だった。
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