暗殺者と竜
一色が五十名前後の
しかし、目的を考えれば意外な数でもない。
ラムレキア王を討ち取れれば良いが、名高き勇者王を容易に倒せるとは思っていない。国同士の戦闘行為の最中に敵将を暗殺するのは後々批判を集める可能性はあれど、親族の拉致誘拐も似たようなものなので構わないだろうが欲張れば事を仕損じる。
(う?)
強力な魔力の持ち主の接近を感じる。昼間に確認した金髪の男だろうか? 立ち去るところまで確認したつもりだったが、見せ掛けだったのかもしれない。
(何者かまでは分からなかったが、この魔力は異常だ。強力な魔法士かもしれない。警戒させよう)
特殊な笛で短い合図を送る。
敵が魔法士でも彼らなら一気に接近して仕留めるのは可能だ。身体強化に合わせ、訓練で限界まで高めた反射神経は、魔法さえ回避可能にしている。長時間は難しくとも、肉薄するまでの間であれば集中力も維持出来る。
範囲魔法で狙われないよう相互に間合いを取って足を速めた。
ところが、うち一人が急に脱力してまろび転ぶと動かなくなる。見れば額に穴が開いていた。
(この攻撃、魔闘拳士!)
見れば、遠く光点が輝いている。情報にある光魔法で狙撃されたのだ。
(察知されたか。早過ぎる)
驚きはあるが立ち直りも早い。
合図を変えて散開を指示した。
◇ ◇ ◇
出際にはエルフィンが気配を感じて集まってきてくれたが、そのまま護衛を続けるようお願いして駆け出した。取りこぼしが誰かに危害を加えては敵わない。
(結構な数がいるから接触する前に削りたいところだけど、こう暗くては狙撃は難しいな。
まだ距離があるうちに狙撃を加えるも、数射して一発命中させるのが限界だった。
(
討ち漏らさなような算段が付きにくい。足を使うのが順当か?
おそらく
(小さくした
しかも、視界の悪さをものともしない。人間とは違う感覚を使っているのだろう。
(いろいろ出来そうだ。僕が守ってもらうっていうのも、あながち冗談にならないかも。それなら自由に動いて潰して回ろうかな?)
カイは
彼方の篝火の赤を微かに反射させて飛来する投擲具を弾いて落とす。掴み取れるものは投げ返すが、それほど効果は望めない。自分達が使う武器を躱せなくてどうするというのだろう。彼らとてそのくらいの訓練は積んでいるはず。
(それなら射線だけ使うか)
飛んできた方向に狙いを定めて
(こんなんじゃ手控えしてくれないだろうけど何もしないより増し)
撃ち返しつつ気配を探る。接触は近い。
小剣の鋭い突きを鍔元で掴み、引き込んで膝を入れようとするが、燈色の鉢金の間諜はあっさりと手放す。逆に手にした投擲具を投げずに刺そうとした。
カイは身を沈めて躱すと、鍔元を握った小剣でそのまま脇腹を斬り裂く。そして、背後に回り込んだ一人に向け、持ち直した小剣を全力で叩き付けた。
同じ小剣で受け止めたが、過大な剣圧で双方が砕け散ってしまう。片腕で破片を避けた相手に対して、彼は避けもしなかった。
鎧下の防刃服は跳ね返してくれるが、頬や顎を掠めた破片は皮膚を裂く。だが、寸分の躊躇もなく彼は銀爪を胸に突き入れた。
「
傷だけを回復させると、
見た目は子供のティムルに対しても侮れない魔法士と断じたのか、相当数の
仔竜の周囲に数個の赤く鈍く輝く球体が発生すると、そこから周囲を薙ぐように熱線が放たれる。ひときわ赤く輝く光芒は、金属製の武装であれど容易に焼き切った。
武器を失うだけでなく、身体に浴びた者は四肢の一部を失ったり、下半身を丸ごと失ったりと凄惨な状況が現出する。ティムルは敵と認識すれば、一切の加減をする気がなさそうだった。
ただ、その熱線も狙い違わず照準出来ている訳ではないようで、かいくぐったジギリスタ教会の暗部達が投擲具を小さな身体に向けて放った。そして、為す術もなく命中してしまう。
「キン!」
響いたのは有り得ない音色だった。
投擲具は怖ろしく強度の高い物質に当たったかのように、弾かれて大地に落ちる。
人化する時、ドラゴンは全身を覆う鱗の形態形成場を書き換えて衣服に変換する。その状態は彼らのイメージ次第で自由自在。
触れれば柔らかな状態を作り出した上で、鱗の強度をそのまま残しておくのも可能である。そもそも形態形成場を書き換えるなどドラゴンにしか出来ないが、精密な構成力あっての芸当でもある。
投射武器を弾かれた衝撃は甚大で、足を止めるに至った格下の暗殺者は熱線の光芒に焼かれ、
周囲の
しかし、夜闇を切り裂いたのは金属音だけ。服に覆われた部分も、地肌の部分も刃を決して受け入れない。そればかりか、弱点と見える眼球を狙って突き入れられた切っ先さえ、火花を散らして堅い感触を返すに至っては全員が凍りついた。
そして、闇に光の花が咲く。
小さな身体を見えないほどに覆った暗殺者達は、無数の輝く刃によって貫かれていた。
ふっと光が拡散して消えると、支えを失い命も失った肉体が折り重なるように伏した。
(これは強烈だな。勝負になってないね)
黒髪の青年は感嘆する。
(一切の武器による攻撃を受け付けない。魔法で対抗しようにも、魔法力で上回ろうなどとは夢のまた夢。付け入る隙がないとはこの事だね)
二
「魔力のほうも全然問題なさそうだね?」
一応は気遣って、傍らで確認する。
「だいじょうぶー。でも、ちょっとこわかったかもー?」
「それは困ったね。でもね、今はあっちのほうが怖がっているみたいだよ。君の強さにね」
「じしんついたー。がんばれるのー」
ティムルはにっこりと笑い返してきた。
半分以下になってしまった暗殺者は、無敵の仔竜を倒すのを諦め、目標をカイに切り替えたようだ。これだけの人員を投入した以上、彼を戦果に上げないと申し訳が立たないとでも思ったのか殺気が集中する。
「さあ、一気に片付けちゃおうか?」
「そうするのー。はやくかえってねむりたいのー」
「
金色の髪にぽんと手を置いた青年は頷いて呟く。
「
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