砂糖の評価

 朝の鍛錬が終わったら、今陽きょう今陽きょうとてチャムはスピンドルハッピーを味わいに行った。


 カイはセネル鳥せねるちょうに取り囲まれ、リドにじゃれ付かれながら細工物をしている。パープルにつついてお願いされ、彼らにモノリコートを与えたりしながらになる。


 セネル鳥達が唯一口にした加工食品がモノリコートだ。

 理由は不明だが、モノリコートだけは食べるとクチバシをもごもごさせながら目を細めて美味しそうにしている。その様が面白くてカイは時々与えているのだ。

 逆に言えば高燃費な彼らがモノリコートを好んで食べてくれるなら、移動時の食事休憩を小まめに取らなくて良くなるので助かる。その栄養補給用モノリコートも砂糖が無ければ生産できない。村長に売ってもらった砂糖甕は本当に助かっている。

 午後になって子供達がやってくれば細工物などやっていられない。さっさと片付けてしまわねば大変な事になる。


 そのはパープルに乗ったカイの前に一番大きなリリアナを乗せ、他の小さな子達は三羽に分乗し、満載状態にして少し遠乗りに出た。

 子供が大好きなイエローはご満悦の様子。


 平原を歩き回って近くにいる動物などを見る。

 一度だけはぐれの炎狼ヒートファングが駆け寄ってきたが、パープル達に寄ってたかって蹴られ、あえなく絶命して彼らのおやつになってしまった。その時だけは子供達も少し引いているようだったが。

 その後はセネル鳥が撃ちあげる光熱弾が空で破裂する様など見て大盛り上がりしていた。


 堪能した後、戻ってきたチャムは何もない草原で呆然としている。


「あっれぇ ──── ?」


   ◇      ◇      ◇


 数陽数日後、トゥリオが馬車を伴ってロムアク村に帰ってきた。

 彼は村長立ち合いで、もう一度砂糖の査定を行いたいと告げる。


「僕はロドマンと申します。ガウシー商会の者です。今日はどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそお願いします。村長のガドですじゃ」

「で、こっちが今の俺のパーティー仲間なんだ」

 トゥリオはロドマンに、カイとチャムも紹介する。

「あなた方がそうなんですか。あの…、どうかトゥリオさんの事、よろしくお願いします。この方は…」

「ロドマン! そのことは今はいい。砂糖のほうを頼めるか?」

 ロドマンの台詞を遮って事を早く進めようとする。


 チャムは何か言いたげにするがカイに目線で制された。

 冒険者同士、過去の詮索は禁忌タブーに近いものが有るし、訳ありなら訳ありで自分から言い出すまで待ちたいと彼は思っていた。


「では見させていただきますね」

 ロドマンは甕の蓋を取って砂糖の状態を見る。

 粉末の粒のそろい方、色味、香り、そして味と見ていく。乾燥状態も保存状態も何ら問題無しと見たロドマンは笑顔を見せる。

「これなら230…、いえ、250シーグ二万円で取らせていただきますよ、村長さん。本当に良い出来の茶砂糖です」

「本当ですか!? ああ、これで儂らは救われる。一時はどうなる事かと…」

 村長は思わず涙ぐんでしまう。


「ベックルの近くにこんなに良い砂糖の産地があるとは存じ上げませんでした。申し訳ない」

「とんでもございません!こんなに良い評価をいただいた上にそんなお言葉まで」

「お世辞でも義理でもないんですよ。事実です。そこでお願いなのですが、村長さん」

 ロドマンは改めて向き直る。

「なんでございましょう?」

「こちらの砂糖は今後もガウシー商会で取り扱わせてもらえませんでしょうか?」

「ガウシー様ほどの大商会が儂らにそこまでおっしゃってくださるのですか?」

「ええ、損はさせませんし、私共も損はしません。何の問題も無い取引です」

 トゥリオが肘でカイをつっつく。(本当だったんだな)と言わんばかりに。

「だから言ったじゃないですか。砂糖は見慣れているんです。白砂糖も茶砂糖も色々実験したんですから」

「冒険者に料理の腕自慢されてもどう答えていいか解んねえじゃねえか?」

「たまには素直に褒めてください」


(それはなんか嫌だ)

 トゥリオは思う。


「皆の者、ロムアク村は救われた。ロドマン氏に感謝を」

「そんな大げさにしないでください」

 苦笑いしつつロドマンは言う。

 ところがそこへバタバタと駆け込んでくる者の姿が有った。

「ロドマン様! ロドマン様! こちらでしたか…。すぐにお戻りください! 旦那様が…、旦那様が!!」


 風雲急を告げる報せだった。

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