刃主vs魔闘拳士(2)
風切り音をともなって振られるメイスは拳の一撃で叩き落された。
「それ、刃が付いてませんよ?」
重い衝撃に皮肉で返す。
「これくらいは許してくれよ」
「仕方ない。武器の括りで考えますよ」
掴んだナイフを投げ返すと、右のハルバードの柄で弾いて金属音を鳴らす。
実に多彩な武器を使用して攻撃してくる。めまぐるしく変わる攻撃に対峙した者は幻惑されるだろう。
斬撃、突き、打撃に投擲と、様々に変化する攻撃は、都度間合いが異なる。これが最も対処に困る点であろう。その上で時折り織り込まれる属性魔法剣まで加わると、普通は対処し切れまい。
それさえも属性光剣で中和して見せた時は、さすがのディムザも目を瞠って見せた。
「よくやる。穴が見えないぞ?」
苦笑いで言葉を投げ掛けられる。
「近接戦闘の穴を潰していなければ、拳士なんてやっていられないでしょう。欠点だらけですよ?」
「超長距離攻撃手段まで持っている癖によく言う!」
「手が長ければ長いだけ守れるものが増えるんです」
左に現れた驚くほどの大剣の斬撃を右の拳甲で受けると、右のハルバードを手刀で逸らしながら左足で柄を踏む。柄を銀爪が斬り落としたところで右手の
振り下ろされたモーニングスターの鉄球を両手で掴み取り、引き込みながら放った拳打は短槍で受け止められ、至近距離で放たれた投げナイフを左の手刀で払わねばならなかった。
二人が戦いながら進んだ後には累々と破損した武器が散らばっている。
「それだけに惜しい。俺に手を貸せ、カイ!」
攻撃の合間に掛ける台詞ではない気がする。
「無理ですよ」
「お前が味方なら、俺の望みなどすぐに叶う。やり方が気に入らんと言うなら、その後で討てばいい。いくらでも挑戦を受ける」
「それは貴方の本心ではないのです。幾分かでも本気でそう思っているなら、トゥリオに絡んで僕を引き摺り出したりはしないでしょう? 心のどこかで僕に勝ちたいと願っている。そうでないと貴方はやり遂げたと感じたりはしないはずです」
投げ付けられた短槍を大きく弾くと
鉄爪が突き込まれるのを掴み取って折った
「
衝撃でひびの入った肋骨を修復する。
「ならば見過ごせ。せめて帝国内の事には干渉するな」
「割り切るにはあまりに不安定なのです。帝国民全てが侵略に貪欲なら内部分裂など知った事ではない。ですが、そんな事はあり得ないでしょう? 平和を願っている人もいる。その声をないがしろにしているのが今の貴方の国なのですから」
「
否定は出来ないといったところだろう。
「だったら手を組む相手を選びなさい。一人で走ってどうにかなるような問題ですか?」
「誰かがやらねばならん! 血を継ぐ俺なら可能性が大きいと解らないか?」
「内から変える気概は認めます。でも、しがらみの中でもがく貴方の拳はどこまで届きますか? 泥の中で手を伸ばして掴み取れるほどの運を持っていると思いますか?」
薙がれる大鎌を踏み込んで柄で受ける。膝を跳ね上げてへし折り、腰溜めからの豪速の右拳を放つが、左の
大きく跳ね下がったディムザが投げナイフや
無闇に射角を上がられない。立ち位置が激しく変わる場面では、射線の先まで見通している余裕はなかった。
「じゃあ誰がやる? 君ならもっと上手く出来るのか?」
出来るものならやってみろとでも思っているのか、半目の視線は冷たい。
「僕に出来るのは壊す事と守る事だけです。統べる事は出来ない。どうすれば良いのか未だ霧の中です」
「まるで俺に考えを改めろと言っているようだな?」
「それが近道とも思うのですが、貴方の根底にあるどす黒い感情は、僕の中に澱のように溜まっているものと同種な気がしてなりません。王器には邪魔なものです」
それは図星だったのか、頬がひくりと反応を示したように思う。
「ならば青髪にその器があるとでも?」
「彼女にはもっと穏やかに暮らしてもらいたいと思っています。統べる器の持ち主は他にもいるのですよ。ラムレキアにもコウトギにも」
「く! トレバのように帝国を滅ぼす気か!?」
長剣の火属性刻印を起動して地を這わせるように擦りながら突進してきた。
「それも選択肢の一つなだけです」
「やらせるかー!」
右人差し指でマルチガントレットの青い線をなぞると、
(やらせないでくださいよ)
期待に背いているのはディムザのほうだと思う。
◇ ◇ ◇
戦場はそうとは思えない空気に包まれている。
武器を取れば無双と誉れ高い
デュクセラ騎馬隊三千を下したベウフスト候軍は最小限の護衛を残し、イグニスは歩兵隊三千を率いてゆったりと右回りに移動する。今はまだこちらに目は向いていない。なぜなら先行したチャムとトゥリオ、フィノが騎馬隊と合流し、向かって左側、敵右翼を攻め立てているからだ。
騎馬隊の突撃にプレスガンの狙撃、大規模魔法まで加わると七千を超える軍にも無視出来ない損害を与えられている。敵将は優秀なようで、前衛が崩壊しないよう制御しているが、さすがにベウフスト候軍の動きまでは注意を払えていない。
(ここまで読んでいたのか?)
慎重な用兵をしながら虎獣人は思う。
これはチャムに耳打ちされた作戦だ。事前にカイから聞いていたらしい。
条件によって変わる状況だったが、幾つか提示されていた作戦の中に現状に合致するものがあったので実行に移している。
どれも前提は彼が
新兵器が完全に失敗に終わったディムザは、次の最低限達せなければならない目標に手を出す筈だとチャムは聞いている。それはカイが動いて戦場を大きく攪乱させない為に彼が抑え込めるかというものだと言う。
(今なら納得は出来るが……)
そこまで
現実には五分の戦いが繰り広げられ、帝国正規軍は釘付けにされている。既に目前だ。
「左翼、迎撃!」
大音声が響き渡った。
敵将は目敏いようで、接触前に気付かれてしまった。
「突撃 ── !」
だが、十分に距離は詰まっていた。その位置からなら獣人兵には一足だ。
重装兵は騎馬隊と魔法攻撃で崩壊していた。歩兵同士の戦いなら人族のみの軍勢と獣人兵だけで構成された軍勢では比較にならない。
一気に雪崩れ込んできた獣人兵に、正規軍は防戦も儘ならずに打ち倒されていく。
イグニスも真っ正面から斬り込んで獅子奮迅の戦いを演じていた。
◇ ◇ ◇
「勝負ありましたね?」
カイに言われてディムザは非常に渋い顔をする。
「それでも君に蹂躙されずに済んだ」
「負け惜しみに聞こえてしまいますよ?」
「然りだな。トゥリオに笑われる前に手を引かねばならないだろう」
頭を押さえると、思い直して顔を上げ命令を発する。
「戦闘停止! 全軍引けー!」
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