セネル鳥
セネル鳥は陸生鳥類で最も一般的な種である。
体高は
体型はずんぐりとして見えるが、筋力は高くスタミナもある。頭部に飾り羽を持ち、大型で鋭いクチバシをしている。
脚部はY字型の爪を持つが、実はY字の前二本の爪の間に短い爪が生えている。これは
数羽から数十羽の群れを作って生活し、仲間意識が極めて強く、仲間が襲われれば相手が強力な魔獣でも集団で蹴り殺してしまう事例も多々見られる。
群れで草食動物を狩る姿も見られるが、基本的に温厚な性格をしている。
騎鳥として人に卵から育てられた場合は非常に従順に育ち、手綱や鞍も嫌わない為、広く騎乗動物として利用価値を認められている。
各地で育成がされているが、中には属性を持つものも現れる。その場合も騎鳥としては何の問題も無く、むしろ珍重される傾向にある。
その為、属性セネルは高価で売買されていた。
◇ ◇ ◇
結界杭に魔力を充填して再び打ち直したカイは認識阻害効果を確認した後、その場を離れた。
二人と一匹と四羽は森を出ると街道脇の広いスペースまで出て、昼食の準備に入った。
「彼らは何を食べるんだい?」
「雑食って聞いたわ。何でも食べるんじゃない?」
最初から居た紫色のセネル鳥に加えて、後からやってきた青と黄色と黒の羽根を持つセネル鳥まで増えたので、結構な大所帯になってきている。
「じゃあ、いっぱい焼かなきゃね」
まな板を取り出してナイフで切り分けようとしたカイに、後ろから紫色のセネル鳥が近寄ってきて肉をツンツンと突く。
「もしかして生食!? ちょっとあーんして」
クチバシの中を覗くと
「おおお…、これは…!」
「どしたの? ってこれは壮観ねぇ」
肉を一握り大くらいにして放り込むと、もっちゃもっちゃと美味しそうに食べる。
それを四羽分繰り返すと、とりあえず自分達の昼食の準備にする。しかし、背後から掛かるプレッシャーは半端でなく、合間合間に肉を切らなければならなかった。
自分達も食事をしながら色々と差し出してみる。
根菜類と葉菜類は問題無くバリバリと食べる。焼いた丸パンを差し出したらプイと横を向かれた。それではと乾燥させた豆を与えたらパリパリといい音を立てて咀嚼する。
「君達は徹底して生食なんだね?」
「キュ」
一斉に頷かれた。
確かに雑食のようだが、主食は肉のようだ。底が見えないほどの肉がいとも簡単に彼らの胃袋に消えていく。
「これは面白いというか怖いというか」
なぜか見ていて笑えてくる。
「じゃあ僕達は村に戻るから、君達も住処に帰るといい。楽しかったよ、ありがとう」
「キュキュッ!」
紫色のセネル鳥が足を折り畳んで低い姿勢になり、背中をクチバシで指す。
「乗せてくれるみたいよ」
「そんなに気を使わなくても良いんだよ。恩に着せるつもりで助けたんじゃないんだ」
それでも首を横に振り、背中を指す。そうまでされるとカイも察してきた。
「もしかして僕達に着いてきてくれるの?」
「キュ」
こくりと頷きが返ってきた。
「ずっと旅をするんだ。大変だよ?」
やはり頷きしか返ってこない。
「うん、解った。今日から君達は僕の仲間で友達だ。一緒に旅をしてくれる?」
四羽とも大きく頷いてくれた。
カイは満面の笑みになって紫色のセネル鳥の首を撫でる。
「やっと解った? 最初からそんな雰囲気出してたでしょ?」
「でもね、悪くて。行きがかりで彼らの自由を奪うのは申し訳なかったんだ」
「でも彼らの気持ちも汲んであげるのも、甲斐性ってもんでしょ?」
「だね。じゃあ改めてお願いいたします」
一人と四羽でペコペコと挨拶し合う。
「何やってんだか」
「ちゅちゅい!」
「まずは名前、決めなきゃだね」
カイは順に、紫色にパープル、青色にブルー、黄色にイエロー、黒にブラックと名付けた。
「変な響きの名前だけど何なの」
「僕の世界の言葉で、それぞれの羽根の色を表しているんだ」
「へぇ、それなら悪くないんじゃない」
「キュ?」「キュキュウ!」「キュイッ!」「キュウ」
「全員、納得しているみたいだし」
「とりあえず鞍が要るね?」
「それより肉じゃない?」
「気付かない振りしていたとこをずばっと言うね」
カイはストックの消化に困っていた肉がどんどん消化されていく未来を感じていた。
◇ ◇ ◇
カイがパープル、チャムが進み出てきたブルーに騎乗する。リドがなぜか得意げにブラックの背中で胸を張っている。
四羽の中ではパープルが最も体高が高く、
カイが初めて経験するセネル鳥の走りは思ったより安定していた。
二足歩行なので揺れが激しいのかと危惧していたが、そういう歩法なのか意外と上下動は少ない。しかも半ば退化している翼と胴体の間に足を入れると羽根で締めて落ちないようにしてくれるのだ。
これはなるほど騎乗動物として重く用いられるはずだ。
馬より小回りが利いて、変わらない速度とスタミナがあれば利点ばかりだ。二足歩行は荒地走行にも耐えるだろう。
欠点としては、荷駄には全く向いてないし、大人の二人乗りも困難だろう。『倉庫持ち』には無縁の欠点だが。
あっという間にダッタン村まで戻った彼らに子供達が群がってくる。
「どうしたの、これ?」
「友達になったんだよ。一緒に旅してくれるって」
「へー、良いなあ」
「んー、良い事ばかりじゃないよ。危険だし、毎日ベッドで寝る訳にはいかないんだよ?」
「そっかぁ、じゃあいいかなぁ」
旅暮らしの苦労はまだ彼らにはちゃんと伝わらないだろう。
しかし、彼らの内の何人かは将来そういう仕事に就くかもしれない。その時にふと思い出すくらいの出来事だろうか。
子供達に案内してもらって村長のところへ行く。
魔域の解消を告げると大喜びされる。あの辺りでも狩りが出来るようになれば、この村の食糧事情も変わるだろう。だが魔獣が散るまでの
「じゃあ、行こうか、パープル」
「そうね、ブルー、よろしくね。イエローもブラックも」
「キュキューイ!」
彼らの旅は続くのだった。
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