隧道管理
巡察団一行は
魔境山脈横断部分には、西側はホルツレイン関、東側はメルクトゥー関がある。
一人行商や旅行者など個人の場合は人数当たりの税額、一人
個人でも都市の料理店での昼食セットほどの額と思えば相当安価であると言えよう。しかも、その全額が街道管理費に当てられるとなれば、誰からも文句は出ない。意味するところは、人の往来と物流による経済効果だけを目的とした街道なのだと知らしめている。
それは冒険者徽章の提示で無料となるという、都市通行税と同じ扱いからも察せられる。
ホルツレインの通貨に配慮したその税額設定だが、もちろんこの巡察団が納税を求められる事はない。特権行使ではなく、開通式のような記念行事だからだ。
「それでは失礼します」
両側に並んだホルツレイン関の警備兵の敬礼と、整列した近衛騎士隊の敬礼を受けて名代であるセイナが、
「真っ暗だー!」
「すげー!」
「くらくないよー?」
そのまま両脇に近衛の警備を受けつつ、チェインとスレイグ、そしてなぜかティムルが続く。
ドラゴンの感覚ではより遠くを見通せるのかもしれないが、暗くないというのも事実。
薄暗くはあっても、一定間隔で
更に、
「広いんだねー」
中に入ってみれば、特にその広さが実感出来よう。
「うん、高ーい」
「おっきなあなだー!」
幅が
「こんなに立派なものなのですね?」
セイナもしみじみと感想を口にしている。
今回の開通式典までは一般には開放されていなかった魔境山脈横断部だが、本当に誰も入っていない訳ではない。
当然、工事に携わった者は入っている。掘削作業を行う土魔法士。土砂運搬を行う『倉庫持ち』能力者。掘削方向と、地下水量に合わせた内壁凝固厚を指示する技士。それらを統括する管理官と検査技師などが出入りしている。
完成後は
敷設だけでなく、管理にも膨大な金額が投入されている巨大事業なのだ。
それだけに王国もルドウ基金の融資無しでは、もっと工期が掛かっていただろうと予測している。
「これがそうですか」
土砂を凝固させて張り出しにしている台をセイナは観察している。
「きっとそうですわ。わたくしには読めませんですけども、刻印がしてありますもの」
「おそらく間違いないかと思われます」
クエンタはシャリアの言に大きく頷いた。
文字通りの視察の為に、一行は徒歩で進んでいる。
しかし、それでは立ち行かない。山脈横断部だけでも騎馬で三
旅慣れていれば常識的に火炎を用いない魔法具コンロも携行しているものだが、やはり中には焚火を常用していて所持していない者もいる。その台は、そういう者の為に設えられた設備だった。
「ここですの?」
宰相の差し出した
「なるほど、これでお茶を沸かしたり料理をしろというのですね?」
「左様にございます」
随行している管理官が近付いてきて答えた。
十分な魔力容量を持つものなら起動線に魔力を流すだけで刻印は発現するが、そうでない者は
それらは通行札で管理されており、提示しなければ通過出来ない。両側の関が遠話器で情報交換していて、
これらの実践的な仕組みはホルツレインの主導で行われており、カイも何度も助言を求められたものである。彼がちょっとしたお願い事をしていたので、その要望くらいには応えなければならなかったのだ。
そのお願い事とは、掘削土砂の管理である。工事着手前から、カイは極秘裏に国王アルバートやグラウドに忠言をしていた。
「おそらく掘削土中の岩石から予想以上のオリハルコン鉱石が発見されるので、それを秘密にして管理するように」と。
そして、それは現実になる。守秘義務を課せられて、言い含められていた管理官から、相当量のオリハルコン鉱石が発見されたと報告があったのだ。
それらは内密に運び出され、精製されて今は王宮の宝物庫に眠っている。少量ずつ市場に流して、街道管理費に充当される算段になっていた。それはメルクトゥー側でも行われている。
事実が発覚すれば、一獲千金を狙う山師が大挙して魔境山脈に押し寄せるだろう。いくら冒険者の護衛を付けたところで、そのほとんどが魔獣の餌になるだけである。事故と呼ぶにはあまりに甚大な被害が出るのは想像に難くない。
二人は納得して二つ返事で応じたし、シャリアもその相談に頷かざるを得なかった。
「では、ついでに休憩にいたしましょうか?」
クエンタが提案し、セイナも頷く。
「休憩するの!? やった! お菓子だして!」
「
「おかしー? たべるー!」
幼児達は元気いっぱいで休憩の必要性など微塵も感じさせないのだった。
そこからはセイナやクエンタは馬車に入る。一
だが、予想通りに幼児達は馬車の中に大人しく納まったりはせず、外を歩きたがる。なので、随行メイドは馬車に入ってもらい、カイ達が世話を引き継いだ。
「本当に凄いなー。こんなものを作っちゃうんだねー?」
少し歩き疲れた様子を見せたチェインは、ブルーの鞍の上で揺られている。
「君が赤ちゃんだった頃からずっと工事していたのよ。それでもこんなに早く出来上がったのは、大勢の土魔法士や『倉庫持ち』が協力したお陰かしらね」
「でも、これで山向こうの人もいっぱい渡って来れるんでしょ? この広い道も大勢の人が通るんだね?」
イエローの背でスレイグが瞳を輝かせている。
「この向こうにどんな風景が広がっているか楽しみでじゃないですかぁ?」
「うん、すごい楽しみー!」
「あんまりもりはないよー。くさばっかりはえてるのー」
パープルの背からティムルが答える。
「そうかー。ティムルやフィノ達は知ってるんだね?」
幼児達はこの大冒険に思いを馳せていた。
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