騎乗武器
変わらずリズム良く足元をチビ
「あら、まだ何かあったかしら?」
「もう一つ、限界を感じている物が有ってね、それを作ろうと思ってる」
「何を?」
トゥリオの
「取り繕ってはきたけど、露骨に不自然だからそろそろ気付いている筈だよ?」
「という事はカイさんの装備って事ですねぇ? 頭防具でも作りますぅ?」
確かに刃物相手に飛び込む拳士の頭は、ガラ空きでは不安感を誘うだろう。
「それもちょっと考えているけど、もっと急務のほうなんだ」
「あっ! もしかして。でもぉ……」
カイがパープルのほうを指差したので気付くには気付いたのだが、それはイメージに無かったのだ。
「そう、騎乗戦闘用の武器」
「カイさんほどの生粋の拳士に武器持たせるって想像出来ないですよぅ」
「確かにねぇ。でも不自然極まりないのも確かなのよねぇ。何にするの?」
「とうとうお前も剣を手にする気になったか。男なら大剣だろ?」
「タイプ的には双剣じゃない?」
「騎乗戦なら相場は槍かランスですよぅ」
様々な意見が飛ぶ中、作業台にドンと
まずはかなり長い柄が引き出された。それだけなら槍と思うが、木製でなく金属製というのが引っ掛かる。柄尻には球体の石突が形作られた。
柄の先には刀身が成形される。その鍔の位置から鉤が伸びる。
「ハルバード? ううん、それ片刃よねぇ」
そう、諸刃の剣身でなく反り返った刀身なのだ。刃の背は斬れない峰を形成している。その刀身の根から刃の側には鉤が伸び、その他の三方向は切っ先向きの棘が生えている。棘は剣などの刃物を受ける為の物だろうが、鉤は更にそれらを絡め取ったり折ったりする目的の物だと思われる。
「槍にしちゃ珍妙な形だな」
「見慣れませんですぅ」
刀身は
「これは『薙刀』って云うんだ。形状は槍みたいな突き系の武器だけど、実は斬撃系の武器だったりする」
「この間合いの長さで斬撃系だって言うの!? ほぼ槍の間合いじゃない?」
「そうなんだ。修行していた頃にこれの相手が厄介でね、攻略の為にしばらく使ってみた事が有るんだよ。だから間合いの長い武器を選ぶなら薙刀だって思ったんだ」
頭上に掲げるとブンブン振り回して見せる。
「そうか? これ、重くて取り回しが難しい上に、懐入られたら終わりっぽくねえか?」
「じゃ、試してみる?」
「やってやろうじゃねえか」
ニヤーッと笑うカイが不気味どころじゃないのだが、売り言葉に買い言葉で組手に持ち込まれた気がする。
「その前にお茶になさってください」
セイナがやって来て、誘ってきたので一時休戦だ。その声に、セネル鳥の雛がワッと寄っていった。
育ち盛りの彼らは食べる量も驚くほどだ。
◇ ◇ ◇
小さく切られた肉片があっという間に消えていくのを眺めているとそれだけでお腹いっぱいになった気がする。それでも果物やクッキー、カップケーキのような物を抓んで、身体に糖分を補給した。
「ナーフスがもっと入る様になったら、運動前には最適なんだけどね」
「そうですわね。甘くて腹持ちが良くて元気になる食べ物ってなかなか有りませんもの」
腹がくちくなった雛達はセイナの側で大人しくなった。彼女の言う事は聞くし、満腹でコクリコクリしている子も居る。
「さて、やるか?」
「いいよ」
立ち上がって
「んー、盾を使わないで良いのかなぁ?」
「余裕だぜ。碌に使った事の無い武器持った奴なんかに負けてやらねえぞ」
中段に構えるトゥリオに忠告するカイ。チャムとフィノは、なぜ自分から負け台詞を言ってしまうんだろうと思う。
「真剣でも構わないのかな?」
「お前こそその武器で寸止めできるんだろうな?」
「ああ、当たったら治してあげるから」
「そういう問題じゃねえ!」
漫才じみた遣り取りに乾いた笑いしか上がらない。
カイは柄の中央をマルチガントレットの右手で掴むと、薙刀を左溜めに構えて左手は軽く添える。右利きなら普通は右溜めに構えるところだが、
逆構えに、余計に不安を覚えるトゥリオはまず軽く切っ先を合わせてくる。涼やかな金属音が鳴ると、カイがザッと右足を滑らせて踏み込んできた。
トゥリオの大剣を鉤で絡めるとそのまま左へ倒し込み、剣から外した刀身がトゥリオの眼前を薙ぐ。鼻先
「おい、危ねえだろ!」
「ちゃんと外してるって。相手の武器がそういう武器だって解ってやらないと、今みたいな目に遭うよ」
手首の操作一つで刃の方向を変えているのに、太刀筋がきっちりと立っているのにチャムは驚きを隠せない。
今度は用心深くジリジリと前に出てくると、スッと前に突き出された刀身がクルリと回転して刃が上を向く。峰で大剣が下に押し下げられたと思ったら、刀身だけが跳ね上がってきて耳元をビュンと通り過ぎる。背筋を寒気が駆け上がったトゥリオは再び距離を取る。
(何だよ、これ。遣りづれえ。不用意に飛び込めねえ)
いつの間にか刃が下になっている刀身をどう抑え込んでやろうかと考える。間合いを計りながら突破口を探していると、シュッと突きが伸びてきた。今の位置では届かない突きだ。ところがその突きがグンと伸びると、気付いたら顔の横を通り過ぎている。
薙刀の柄が突き出した右手を滑り、球体石突で止まって、カイの伸ばした右腕に柄の長さを加えた距離まで刀身が伸びているのだ。切っ先はカイの身体から
(なぁっ! とんでもねえ間合いしやがって冗談じゃねえぞ!)
気付くとトゥリオの背中を伝わる汗が止まらなくなっている。
「ねえ、トゥリオ。君もう三回死んでいるんだけど?」
「うるせえ! やっと解ってきたところだ。もう見切ったぜ」
トゥリオは切っ先を後ろに、腰溜めに大剣を構える。いかにも飛び込みますよ、という構え。
(この武器は間合いは常識外に長え。だが、柄の長さまで入られたら何も出来ないってやつだ。そこまで搔い潜って行ってやる!)
巨体に見合わぬ速度で踏み出したトゥリオは、伸びてくる切っ先を必死で躱す。重なる突きを掠めさせて何本もの髪の毛を斬り飛ばされながらも、頭が構えた状態の刀身の位置を通り過ぎた。
(入った!)
思い切り踏み込んで腰溜めの剣を繰り出す。寸止めの為に右手の握りを緩めて押し込んでいたら、柄がスッと上に上がっていった。代わりに下から迫るのは石突である。
(ちょっと待てえぇ!)
もう身体は慣性で止まらない。鳩尾を石突で強かに打ち付けられたら、溜めた息が全部吐き出させられた。
「ぶほっ!」
足を掛けられ、柄で上体を押されると呆気なくトゥリオは転ぶ。その首元に刀身が添えられた。
「はい四回目」
カイがニッと笑っている。
「短い間合いの攻撃法が無いと思った? 残念でした」
「トゥリオ、あんたねぇ。そもそも飛び込めば殴られて終わりだって気付かない? 相手は拳士なのよ?」
美丈夫は手を挙げて降参のポーズを取る。
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