第989話 渡米する女 6
(前回からの続き)
オレはひたすら考えた。
そもそも渡米などという
ひょっとして日本で働いて経済的に妻の留学を支えた方がいいのかもしれない。
いくら授業料は奨学金で
なけなしの貯金をはたいても果たしてやっていけるのか?
それやこれやを考えながら、脳神経外科教授のところに相談に行った。
教授は一言「
「でも、妻の留学に着いていく亭主なんか
オレがそう言うと「いや、ワシが知っているだけでも4人はいるぞ。そして全員が立派に出世した」と返された。
さらに「ワシはお前の職業人生にも責任があるが、結婚生活にも責任があるからな」とも。
よく考えたら、我々夫婦が結婚するにあたり
他に脳外科の上司や留学経験のある同僚たちにもアドバイスを求めたが、全員が口を揃えて「行け、そして生きて帰って来い!」とオレをけしかける。
「向こうで主夫をするのもいいんじゃないか」
「アメリカにはコミュニティ・カレッジというのもあるから、そういう所で学ぶという方法もあるぞ」
皆、
ちなみにコミュニティ・カレッジというのは、日本でいうところの専門学校か各種学校みたいなものらしい。
別に学位を取ろうってわけじゃないので、学べさえすれば
もし日本での研究を米国でも継続するとすれば、脳虚血か画像支援手術ということになる。
前者は研究分野として確立されていたが、オレ自身はあまり成果を出せていなかった。
後者はCTやMRIのデータを使って三次元画像を作成し、手術計画に用いようというものだ。
こちらは研究分野としては全く確立されていなかったが、なんせ面白かった。
寝食を忘れて画像を作成しては、それを手術室に持ち込んでいた。
ただ、自分のパソコンではいかにもパワー不足であり、また市販の画像ソフトウエアは
そんなオレの思いとは裏腹に、海外からは目を
それでもオレは自分なりに工夫した画像を作成し、それを使った手術を行い、そして論文を書いて投稿した。
めでたく
新しい分野だけに
オレも言いたい事は沢山あったが、いきなり
そんな中。
ある学会のポスター展示でひときわ目を引く美しい脳の画像があった。
日本人研究者の発表だが、ボストンのブリガム・アンド・ウイミンズ病院で実際に手術に応用されているとのこと。
ブリガム・アンド・ウイミンズ病院という名前はその時に初めて知った。
が、ハーバード・メディカル・スクールとハーバード公衆衛生大学院に隣接した教育関連病院だ。
しかもポスター展示していた研究室の名前はそのものズバリ!
これだ、これしかない!
急いでオレは教授を通じて、関係者に連絡を取った。
この事がオレの運命を大きく変えることになる。
(次回に続く)
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