第238話 頚の痛みで会社を休む女

その女性は73歳。

1年に1回程度、画像のフォローをしている。

何の病気かは覚えていない、カルテには書いてあるけど。


本来なら春だが、なぜか10月にオレの外来を受診した。

が、来院までにひと悶着もんちゃくあったみたいだ。


1ヶ月ほど前に自転車走行中、単車と衝突した。

近くの救急病院に搬入されたそうだ。

頭を打って、くびひねっていた。

でも画像検査では特に問題なし。


にもかかわらず1ヶ月経っても頚が痛い。


そこで1年に1回フォローのオレにてもらいたいと電話があったのだ。

ところが電話を受けた外来ナースが、今かかっている医療機関で診てもらうよう言ったらしい。

それで激怒した患者がそのままオレの外来にやってきたというわけだ。


保険の関係もあるので外来ナースの言うことも分からなくはない。

あちこちの病院にかかると、治療費を支払う損保会社が良い顔をしない。

とはいえ、誰が代金を支払うかはオレの知ったことではない。


患者が来たかったら来てもらったらいい、とオレは外来ナースに言った。

勿体もったいつけるほどオレは偉くない。

いつもニコニコ、ペコペコだ。


とはいえ、待ち時間が長いのは大病院の常。

診察室に辿り着いた患者は疲労困憊ひろうこんぱいだった。


「頚が痛くて、9月初めから1ヶ月以上会社を休むことになっちゃって」


73歳で会社員をやっているのか、それは凄い。


「73歳だったら治るのに73日かかりますね、普通は」

「そうなんですか、納得しました。会社にもそう言えるし!」


73日間は大手おおでを振って休めるという事がよほど嬉しかったみたいだ。


ギャグのつもりで言ったのだけど、案外、この数字は正しい気がする。

どこに真実があるのか良く分からないけど、オレの診察なんてこんなモンだ。


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