第744話 宿題のない男 10
(前回からの続き)
「身体のあちこちが痛いとか、階段を昇らなくなってエスカレーターばかり使うようになってしまったとか。そういう分かりやすい事もあるんだけど」
「他に何かあるのでしょうか?」
「血圧、血糖、コレステロールよ。今のところ日常生活には差し支えがあるってわけじゃないけどな」
たしかに身体的不調の他に数字の不調がある。
血圧や血糖やコレステロール値というのは、とりあえず異常値であっても普通に生活できる。
が、長い年月をかけて動脈硬化が進み、最後は脳卒中や心筋梗塞といった形で
「医者の不養生とはよく言ったもんで、どの数値も少しずつ異常値なわけ。患者に指導している場合じゃないだろ、ワシも」
「お酒やタバコは?」
「酒は少々やるけどタバコは全く吸わないよ」
「薬なんかものんでいるんですか」
「もちろん。でも、何と言っても身体に悪いのは今の仕事だな」
還暦過ぎて産直なんかしていたら間違いなく寿命を縮めてしまう。
「ということは、退職したら多少は自分の身体にも気を配る余裕ができるかもしれませんね」
「その通り。少しは健康的な生活をしたいもんだ」
「スポーツジムに行くとかするんですか?」
「あれも会費だけ払って結局は行かなくなるからなあ」
会費だけ払う幽霊会員が多ければジムも嬉しいんだろうけど。
「ということで、ワシは内服薬を含めた生活全般の見直しをしようかと思っているわけ」
「本当だったら50歳くらいから生活習慣の見直しを始めたいですよね。僕も人の事はいえませんが」
「そうなんよ。結局、この国は医療システムを成立させるために医者の寿命を削っているようなところがあるからなあ」
安い費用で高度な医療を提供しようと思ったらあちこちに
その1つが医者の健康ってわけだ。
「何が理不尽といって、真面目に生きているのに早死にする患者もいる一方、酒やタバコをやりながら90歳まで元気で生きる患者がいるってことだ」
「ということは、先生は清く正しく生きてきたわけですか?」
「ったり前だろ。タバコを吸うやつの気がしれんよ。とはいえ、積極的にジョギングや筋トレなんかをやっているわけじゃないけどな」
オレも同じようなもんだ。
部長先生との違いが1つあるとすれば、カクヨムの執筆だな。
長時間の座り仕事は喫煙と同じくらい身体に悪いそうだし。
あまりにも書きすぎて寿命を縮めてしまったら本末転倒だ。
オレも気をつけなくてはならないな。
(次回に続く)
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