第715話 アトムになりたかった男

 ある番組で「自分にとっての漫画ベスト3をあげてみよう」という企画があった。

 中年男3人の議論なので、どうしてもベスト3が偏向してしまう。


  BE-BOP HIGH SCHOOL

  湘南爆走族

  湘南純愛組

  1・2の三四郎

  ゴリラーマン

  寄生獣

  うしおととら

  柔道部物語

  ストッパー毒島ぶすじま

  球道きゅうどうくん

  SLAM DUNK

  タッチ

  やったろうじゃん

  SOME DAY

  島耕作シリーズ

  ツルモク独身寮

  青空


 3人でそれぞれのベスト3をあげようという企画だったら合計9作品になるはずが、熱すぎて番組の途中で20近くになってしまった。



 さて、オレの場合。


 自分にとってのベストといえば何と言っても鉄腕アトムだ。

 子供の頃、必死になってテレビで見ていた。


 アトム、お茶の水博士、ウラン、コバルト、天馬てんま博士……

 

 単なるロボットの話ではあるが、そこには科学と人類愛が描かれていた。


 いつしかオレは「アトムになりたい!」と心の中で誓っていたが、なぜか医者になってしまった。

 まあ、作者の手塚治虫も元は医者だったので、何かしら通ずるものがあるのかもしれない。


 子供の頃は鉄腕アトムのアニメにかじりついていたが、その後は漫画とか実写版アトムとかハリウッド版アトムも見るようになる。


 実写版アトムは原作とは似ても似つかぬものだと評判が良くないが、それはそれで面白かった。

 ハリウッド版にしても「アメリカ人の解釈はこうなるのか」と妙に納得したものだ。


 さて、漫画のアトムの中で最も好きな話は何かといえば「地上最大のロボットの巻」だ。

 世界中のロボットを壊すために開発されたプルートウにはアトムですら歯が立たない。

 この絶望的に強いプルートウの前に数多くの「正義の味方」たちが倒されていく。

 その理不尽さにオレは泣いた、子供ながらに泣いた。

 今思えば「理不尽」と「滅び」という日本的価値観が子供の頃のオレの中に既に芽吹めぶいていたのかもしれない。


 最近、手塚治虫文庫全集の電子版で入手して「地上最大のロボットの巻」をもう1度読み直してみた。

 なぜか冒頭に手塚治虫自身が出てきて、この物語がアトムの中でも1番人気だったこと、1番仕事が楽しかったころの作品だった、という事が語られている。


 記憶には全く残っていなかったが、プルートウは他のロボットと戦うことにあまり気が進まなかったものの、主人の命令に仕方なくしたがっているという設定だった。


 大人になってから読んでみて気づいたことも色々ある。

 プルートウ自身の葛藤かっとう、負けると分かっていても戦わねばならない正義の味方たちの苦悩、そもそもロボットは何のためにこの世に誕生したのか……


 令和になっても色あせない奥の深い作品だと思う。

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