第172話 子供の腹痛を謝る女
外来診察室で書類仕事をしているときに、医師事務の女性に話しかけられた。
医師事務というのは正式名称を医師事務作業補助者という。
オレたち医師の代わりに診断書や意見書などの定型文書の下書きをしてくれる。
彼女が言うのは、たびたび休んで申しわけない、ということだ。
というのも、学童期前の子供がしばしば腹痛を訴えるのだとか。
「5歳の男の子なんですけど、線が細いというのか」
「吐くこともあるわけ?」
「たまに吐きますね。こんな事で先生方に御迷惑をおかけしてしまって」
幼稚園に行きたくなくて腹が痛いと言うんじゃないか、と母親は疑っているみたいだ。
「そりゃあ幼稚園とは関係なしに腹が痛いんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「片頭痛の一種ということもあるからね」
大人の片頭痛は
国際頭痛分類でも「1.6.1.1 周期性嘔吐症候群」として片頭痛の中に入れられている。
「きちんとした分類がある病気の1つなので、心の問題とか言わない方がいいと思うよ」
「知らなかった……」
「血のつながった人で片頭痛持ちの人はいないかな?」
遺伝するというほどではないが、体質的なものは受け継がれやすい。
「そういえば、主人の方のお
片頭痛を1人みつけたら血縁者に2~3人は同じ病気が見つかる。
日本人全体では800万人以上いるらしいから、そもそもが結構な確率だ。
「あと、都市伝説だけど、片頭痛の子は頭がいい、というのがあるんよ」
「ホントですか?」
「たぶん小学校に行き始めたら、勉強しなくてもいつもトップじゃないかな」
「そうだったらいいのですけど!」
この都市伝説は医療関係者の間でだけ言われているのだが、案外、当たっている気がする。
きっとセロトニンの分泌が関係しているのだろう。
「先生のお話を聞いていたら気持ちが軽くなってきました」
「いやいや、相談してもらって良かったよ」
片頭痛という立派な病気なのに「根性をつけろ」と言われたら、子供の方も立場がなくなってしまう。
自然軽快することが多いので、正しい医学的知識を持って対応してあげよう。
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