第373話 外見に騙される男 2

ついに新しい車がやってきた!


10数年前の新車購入時にも驚いたが、今回も同じくらいビックリだ。

時代の進歩か、やたらスイッチが多い。

ディーラーの人があれこれ説明してくれるが到底覚えられない。


「すいません。ちょっとビデオで記録していいですか?」

「ええ、いいですよ」


そう言われてオレは iPhone のビデオを起動させた。


新しい医療機器でも車でも、使用説明が覚えられない時はビデオで記録するに限る。

合間に色々質問し、その回答も録画しておく。

そうすれば、後で見直して思い出すことが容易になる。


で、色々な説明を受けた後、新車の匂いに包まれながら運転を始めた。

すでに体の一部となっていた今までの車とは何から何まで違っている。


ある意味、非日常の世界だ。

免許取りたての時に親の車を運転したような高揚感と言えばいいのだろうか。


単なる移動ではない。

運転そのものが楽しくワクワクする感じ。

それを思い出した。


ドアを閉めると外の音が遮断されてしまう。

妻がこだわったバケットタイプのシートはオレにも快適だ。

そして、目的地にも早く着く……ような気がする。

たぶん運転が苦にならないので体感時間が短いのだろう。



その一方で慎重な運転が求められるのは言うまでもない。

車間距離を開けるのは勿論、車線変更やドアの開閉もよく確認してからだ。

新しい車の死角が何処どこにあるのか、まだ体感的に把握できていない。

他人はどうであれ、自分は凡事徹底ぼんじてっていつらぬく。



脳外科医にとって交通事故は日常的な治療対象だ。

勝ち目の無い手術を数多くやる羽目になった。

そして外来には沢山の患者が後遺症のために通院している。


診療しながら「事故だけは起こすまい」と自分に言い聞かせる毎日だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る