第384話 ゴールドを売る男

今、ニュースで話題になっている事の1つに金価格きんかかく高騰こうとうがある。

現時点での金は1グラムあたり9,314円で、史上最高値だ。


実はオレは金が好きで、少しずつ買ってきた。

そのことは短編の「頭と尻尾はくれてやれ」でも述べている。



最初に金地金きんじがねを買ったのはウン十年も前になる。


知り合いの医師に勧められたからだ。


「先生、きんっちゅうのはね、中の中まできんでできているんや」

「確かにそうですね」

「金の延べ棒をこう手に持ってみいな。すごいパワーが出てきよるで」

「そういうのは何処どこで買ったらいいんですか」

「そら、〇〇町の××貴金属ってとこやがな」


というわけでオレは金の延べ棒とやらを買いにいった。


実際に金地金きんじがねを持ってみると見た目より重い!

鉄の3倍近い比重があるせいかズシッとくる。


「こ、これがきんか!」


表面の光はむしろ鈍い。

「本物ってのは無理に光る必要はないんだ」と妙に納得したものだ。

その辺は人間でも同じだろう。



それからのオレは小金こがねを貯めては金やプラチナを買った。

金貨やプラチナ地金を眺めながら「ウヒヒヒヒ」と思う日々。


1オンス金貨1枚と同額の紙幣では迫力が違う。

いかなるパワーストーンも圧倒されるはず。


が、現物というのは扱いにくい。

なので10年ほど前からはオンラインで売買している。


そして、近年の世情不安のせいか金価格がどんどん上がり始めた。

コロナ禍とかウクライナ戦争とか米銀破綻べいぎんはたんだとか。

まさしく「有事の金」と言われる所以ゆえんだ。



で、今度は少しずつ手離す。

貴金属は売却益が年間50万円を上回ると税金がかかってくる。

だから、注意深くその範囲におさめるようにしてきた。


が、今や小売価格が平均取得価格の2倍近くになっている。

こうなると、ひたすら売るのみだ。

結構な税金もかかってくるが、もう「毒を食らわば皿まで」の気分。


真の金持ちは現金が紙くず化した時に備えて持っておくのだろうけど。



戦争や銀行破綻でもうけるのはもうわけない気になる。

やはり、金価格の低迷する平和な世の中が1番だ。


金価格が下がったら、またコツコツと買い貯めるか。

再びあの重さと鈍い輝きを自ら感じたいと思う。

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