第220話 お礼を言いに行く男

オレが留学した時、研究室ラボでの給料はゼロだった。

働きぶりをみて給料を出す、とボスには言われた。


それから働きに働いた。

ボスを含めて周囲の誰もが、オレの働きぶり、そして成果を認めてくれた。


しかし、給料が出ない。

なけなしの貯金はどんどん減っていく。


どうやらボスの秘書がサボっているようだ。

というか、彼女の中ではオレの優先順位が限りなく低かったのだろう。


そんなある日、ボスのオフィスに新しい秘書が加わった。

ショーン・カメロンという黒人青年だ。


彼は給料未払いの実情を知ると怒った。

そして支払いを受けていない人々を会議室に集めた。

10人いたか、20人いたか。


「1ヶ月も経つのに給料が出ないとはどういう事だ!」

「俺なんか2ヶ月だぞ!」


そうわめいているのはアメリカ人たちだ。


オレはたまたま横に座っていた東洋人に尋ねてみた。


「どのくらい支払われていないわけ?」

「1年半かな。何度も言ってるんだけどな」

「そうか、オレもそのくらいだ」


彼はヨンスと名乗った。

韓国から来ていたが、もう半分あきらめているようだった。



しかし、ショーンの尽力のお陰で2週間後に給料が出た。

最高経営責任者CEOのサインの入ったチェックを受け取った時には、何故か込み上げて来るものがあった。


早速ショーンの部屋にお礼を言いに行く。

ちょうど部屋から出てくるヨンスに出くわした。


「ついに給料が出たんでショーンに御礼を言って来たんだ」

「お前もかよ。オレも一言ひとことお礼を言いたくてさ」

「とにかくお互いに良かったな」


そんな会話をしながらすれ違った。


ショーンによれば、わざわざ礼を言いに来たのはオレたち2人だけだったそうだ。


「日本人と韓国人ってのは仲が悪いんだろ。でもやっていることはソックリじゃねえか」と笑われた。


確かに日々のニュースを見ると日本と隣国との関係は良好とはいえない。

が、アメリカで日本人が1番つるんでいるのは間違いなく韓国人だ。


世界の荒波の中でふるえながらせ合っているって感じだな。

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