第362話 サングラスをかける男

大昔、NHKの英会話か何かのテキストで読んだ話。


ある日本人女性が部屋に帰った。

するとルームメイトのアメリカ人女性が暗い中で本を読んでいたそうだ。

気をかせて電気をつけてあげたら彼女は怒り出した。


「だって、暗い中で本を読んでいたら目が悪くなるじゃない!」

「悪クナルノハ誰ノ目カ?」


そう反論されたそうだ。

「外国人は個人主義なので、電気をつける時も声をかけましょう」と結ばれていた。


これを読んだオレは「ああ、なるほど」と納得した。

が、実際にアメリカ生活を経験すると「ちょっと違うんでねえの」と思ってしまう。


結論から言おう。


アメリカ人は暗闇でも目が見えるが、明るいとまぶしくて仕方ない。

そして、日本人はアジア人の中でも異様なほど明るい場所を好む。



アメリカでのオレの経験を2つ3つ披露しよう。


研究室の同僚アメリカ人と歩いていた時の事。

彼は建物から外に出るときにサングラスを取り出してかけたのだ。

わずか1分後、隣の建物に入ったらまた外した。


その当時は「マメな人だなあ」と思った。

今になったら分かる。

ブルーの瞳の彼は、単に日光がまぶしくて仕方なかったのだ。


また、総じて夜のアメリカの道路は暗い。

高速道路のナトリウムランプなんか所々にしかついていない。

うっかりヘッドライトを消したまま走る事もある日本の道路とはずいぶん違う。


1度その事をアメリカ人の友人に言った事がある。

彼は「車にはライトがついているからいいじゃん」と平気だった。

暗闇の中を飛ばしている車をよく見かけたが、彼らは普通に見えていたんだろうな。


コンピューターのモニターなんかもアメリカ人のは暗い。

日本人が使っていた後に座ると「グワッ、眩しい!」とか騒いでいる。


アメリカ人の家は部屋も暗かった。

わざと薄暗くして気分を出しているのかと思ったらそうではない。

ちゃんと見えているので明るくする必要はないのだ。


それに比べて日本人の家は、皆、これでもかと明るくしている。

オレの部屋も電球を取り替えて明るくしていた。


「私、気がつくと何時いつも台所にいるのよねえ」


そう言っていたのは米国留学中の日本人女性。

彼女は渡米当初、家の中で唯一ゆいいつ明るい台所にいることが多かったそうだ。



さて、いいオッサンになってしまった今は太陽がまぶしい。

少し白内障が入ってきたのだと思う。


車を運転する時なんか外が明るすぎるのでサングラスをかける。

オレが愛用しているのは、眼鏡の上からかける偏光レンズのものだ。

サングラスをかけるとグッと楽になる。


「こういう事だったのか!」


今になってアメリカ人の気持ちが良く分かる。


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