第625話 爆笑された男
意図せずウケてしまう事がある。
オレが爆笑を誘ったのは、とある会議の席上だ。
会議といっても大したものではない。
内科連絡会という月1回の非公式な集まりだ。
そもそも内科というのは血液内科とか呼吸器内科とかバラバラの診療科の集合体だ。
しかし、内科全体に関わって来る問題もある。
そのような事を話し合おうという事で内科連絡会が行われている。
〇〇内科という名前の診療科に所属していれば誰が出席してもいいし出席しなくてもいい。
総合診療科はどうかというと、内科の一角を間借りして外来診療をしているので内科の先生方と話す機会が多く、内科系ともいえる。
が、臨床研修のプログラムでは内科にカウントされたり救急にカウントされたり、その時の都合で色々と所属が変わる。
とはいえ、オレはコンスタントに内科連絡会に出席している。
今回の連絡会のテーマの1つが朝の割り付けに関するもの。
以前にも述べたが、夜間休日に救急で入院した患者は一旦、当直部というところに入り、夜の間は病棟当直が対応する事になっている。
翌朝の7時30分頃にオレを含む3~4人の担当者がこれを各診療科に割り付けるのだ。
もちろん、
が、肺炎とか
そこをうまく
現在の割り付け担当者たちが「何年間も丸居先生に頼っているのも良くないんじゃないか、持続可能なシステムにしよう」と声を上げてくれた。
そこで内科連絡会で方向性を決めようということになったのだ。
具体的には内科全体で当番を決めて皆で回そう、という事になりつつある。
とはいっても朝7時前後に来て電子カルテをチェックし、7時半から集まって割り付けをする、というのは大変な事には違いない。
「丸居先生が抜けた場合、誰か中心的にやってくれる先生はおられるのでしょうか?」
司会進行の
「現在、
「毎朝、7時半とは凄いですね!」
「
医師の働き方改革でウチの病院にも電子式の
尾木裏医師の場合、早めに帰る日が多いので、毎朝7時半に出勤しないと週38.75時間という勤務時間をクリアできないのだ。
「ですから必ず7時半には出勤しているので、朝の割り付けにも参加してもらっています」
「なるほど」
「当事者意識がどれくらいあるかは分かりませんけど」
そうオレが言ったら、会議室にいた30人ほどの医師たちが大爆笑した。
この発言の何がウケたのか分からないが、場を
「それにしても7時半ってのは何とかなりませんかね」
司会の
「外科系診療科の手術スタートが朝の8時30分なので、そこから逆算するとどうしても8時までには割り付けと連絡を終えておく必要があるんですよ」
実際のところ、8時でも遅いくらいな気がする。
だから外科系診療科に割り付けた入院患者が手術の終わる夕方まで放置されていることも珍しくない。
「うーん、もう少し何とかなりませんか? それと朝早く来る分は時間外手当がつくんですよね」
この人、よっぽど朝が苦手なのか。
それにしても院内の規則を知らなすぎだ。
ちょっと教えておいてやろう。
「もちろん時間外手当はつきますよ。ただし部長先生の時間外手当がつくのは22時から5時の間だけですけど」
「ええっ、そうなの?」
「その代わり、まるめで役職者手当ってのがついているんですよ。確か月に20時間分くらいだったかな」
「そんな馬鹿な!」
真面目にカウントしたら週に20時間の超勤手当でも少ないくらいだ。
連絡会が思わぬ方向に進み始めたので
「役職者手当については色々と問題が多いので修正する方向で検討しています。実は『給料が下がるから』と医長昇任を拒否する医者が後を絶たないんで……」
そりゃあ責任と雑用が増える一方で給料が減ったら誰も管理職なんかやりたくないよな。
それにしても
オレとしては、こっちの方が爆笑もんだと思うんだけど。
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