第337話 ヒアリングに臨む男 1

オレは指定された時刻5分前に会議室の扉の前に立った。

診療看護師の寿栄松すえまつユイカさんも一緒だ。

通常は病棟師長とともにヒアリングに出るが総合診療科は決まった病棟がない。

なので、救急外来で患者を受けている診療看護師に来てもらった。


が、時刻を過ぎても中々声がかからない。

我々の前の診療科のヒアリングが白熱しているみたいだ。

時々、部屋の中から大きな声が聞こえてくる。


ついに扉があき、担当事務員がそっと出て来た。


「なかなか終わりそうにないので、15分後くらいにまた来ていただけますでしょうか?」


寿栄松すえまつさんが尋ねた。


「何か聞こえてきますけど、病院側でしょうか。それとも先生の方?」

「先生の方ですね」


多くの場合、診療科側は機器を買ってくれ、人を増やしてくれ、という。

当然、病院側は少人数で効率的に働けないか、となる。

お互いの主張が激論となって外まで漏れてきているのだろう。


「なるほど、熱く語っておられるわけですね。15分後に参ります」


そうオレが言うと、担当事務職員は苦笑いして頭を下げた。



結局、オレたちのヒアリングが始まったのは予定時刻の30分後だった。


ヒアリングの焦点は総診の入院患者数が少ない事。

目標患者数の約60%、なんと31診療科のワースト3位だ。

これを何とかしなくてはならない。


総診の入院患者数が少ない要因はいくつかある。


4ブースある発熱外来に常時1人が手をとられている。

入院の元となるのは救急だが、言わずと知れた水ものだ。

救急患者ってのは少ない時は全然少ないのに、多いときには無茶苦茶多い。

さらに院内発生のコロナ感染でしばしば病棟閉鎖が起こる。

こうなると入院が必要そうな急患を断らざるを得ない。

さらにスタッフがコロナに被弾して、いや感染して休む。

ますますマンパワー不足に拍車がかかってしまう。


どこを取っても入院患者が増える要素はない。


が、オレとしても不毛の議論は避けたい。

待っている間も何度か院内PHSが鳴った。

書類のサインだの、院外薬局からの疑義照会だの、色々と対応しなくてはならない。

ヒアリングの後にもやるべき仕事が山積みだ。


「それでは総診のヒアリングを始めたいと思います」


オレたちが座ると診療局長が口火を切った。

目の前にいるのは、院長、事務部長、看護部長など、総勢10人ほど。

いよいよプレゼンの開始だ。


「御存知のとおり、昨年の入院患者数は目標には遠く及びませんでした」


目の前の人たちは資料を見ながらうなずいている。


「で、まずは何が原因になったのか、私の考えを説明したいと思います」


10人が一斉に身を乗り出した。


(次回に続く)

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