第338話 ヒアリングに臨む男 2

(前回からの続き)


「総診の入院患者数が減った最大の要因ですが……」


皆の興味をきつけておいて、オレは言った。


「肺炎当番表が定着したからではないかと考えています」


肺炎当番表というのはウチの内科系診療科で作っているものだ。


というのも、救急患者の中で最も多い肺炎を誰が担当するか。

これでめる。


呼吸器内科は肺癌治療で忙しい。

感染症内科はHIV治療で忙しい。

救命センターは外傷治療で忙しい。


この3科が話し合って、肺炎担当は総診にしようということになった。


その結果、4年前の総診の入院患者数はしばしば目標の2倍を超えた。

忙しすぎて薬の量を間違えそうになったり。

患者を取り違えそうになったり。


見かねた内科系診療科が集まって「肺炎当番表」なるものを作成した。

これは肺炎にとどまらず、尿路感染や老衰などの内科系疾患の当番表だ。

前夜の当直で入院したこれらの疾患を翌朝、当番診療科に割り付ける。


たとえば初診の肺炎患者が夜中に救急搬入されたとしよう。

入院加療が必要と救急外来の当直医が判断すれば当直部に入院とする。

そして病棟当直が翌朝まで対応する。


朝7時30分頃、担当者が集まってどの診療科に割り付けるかを話し合う。

この時に肺炎当番表が活用される。

その日の当番が血液内科なら、当該患者は血液内科に割り付けられる。

ただし、月曜日とか三連休明けとかになると肺炎当番対象患者が5人くらいになることもある。

が、血液内科が5人の新入院患者すべてに担当するのは大変だ。

日常業務が完全にストップしてしまう。

だから5人も対象患者がいる場合は翌日や翌々日の肺炎当番に回す。

肺炎当番表が血液内科、循環器内科、膠原病内科、消化器内科の並びになっていた場合、順に2人、1人、1人、1人と割り付けられる。


こういうシステムが出来て、徐々に定着したのがこの1~2年だ。

肺炎当番表がうまく回り始め、総診の入院患者数が少なくなった。


だからヒアリングの席でオレは言った。


「幸い、内科系各科の協力を得て肺炎当番表が定着した結果、総診の入院患者数が減ったわけです」


目の前の病院幹部、10人が大きくうなずいた。


「以前の総診は目標患者数を大幅に上回る入院患者を抱えていたこともあります。総診の入院患者数が減ったということは病院のシステムがうまく機能しているということです」


詭弁きべんに聞こえるかもしれないが、これは実感だ。


「何しろ、各診療科が診たくない患者を押し付ける先が総診だったわけですから」


念のため、オレはそう付け加えた。


「とはいえ、やはり受け入れ救急患者数を増やす工夫も必要です。『断らない救急』を看板倒れにするわけにはいきません。ということで、その実現のための提案をさせていただこうと思います」


再び10人が身を乗り出してきた。


(次回に続く)

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