第339話 ヒアリングに臨む男 3

(前回からの続き)


オレは続けた。


「救急外来の患者受け入れをはばむボトルネックは3つあります」


ついに出た、ボトルネック!

考えに考え抜いた TOC (Theory of Constraint:制約条件の理論)が今まさに火を吹く。


「まず、マンパワー。これは新しい救急医が来ると聞いているので、ある程度解決できると思います」


オレは一旦、言葉を切って部屋全体に理解が行き渡るのを待った。


「次にコロナ感染による病院全体の入院制限。総診が単体で出来ることは限られていますが、せめて自分のところの早期退院を図って病床確保に貢献したいと思います」


皆がうなずく。


「そして救急外来のスペースを有効活用すること」


というのも三次救急が初療室を他所に移した事で、広大なスペースが救急外来の隣に余ってしまったのだ。

ここを使いたい。


「これまで三次救急が使っていた旧初療室に4ベッド入れてそこで搬入患者さんを受け、検査結果待ちの人たちを従来の救急外来の4ベッドにうつすということを提案したく思います」


一通りの診察が終わって検査結果待ちの約1時間、その数値次第で帰宅になるか入院になるかが決まる。

この間の患者の待機場所が今までなかったのだ。

だから仕方なしに救急外来の4ベッドを使っていた。

ところが、待機患者が4人になってしまうと新たな急患を受けることができない。


そこで、旧初療室で診察用4ベッドを使い、隣接する現在の救急外来で待機用4ベッドを使う。

こうすればはるかに多くの患者を受けることができる。


旧初療室の改造は最小限の費用で済ます。

また看護師の増員も1人くらいは必要になるだろう。


でも、それだけだ。

それだけの事で大幅に救急患者を増やす事ができるなら安いものだ。


「各診療科が急変した通院患者さんを総診にブン投げてくる、それもOKです」


オレは普段思っていることを口にした。


「近隣医療機関が手におえない患者さんを頼んでくる、それにも対応しましょう」


さらに続ける。


「地域の先生が現に困っているわけだから、『このくらいの事で送ってくるな』とか、『もっと近い所があるだろう』とか、そんな事を言わずに助けてあげればいいじゃないか、と私は思います」


もう止まらない、正論攻撃だ。


「売上がどうとか患者確保がどうとかを超えて、目の前で困っている人を助ける、その原点に総診は立ち戻りたい。そう思うわけです」


オレはもう政治家気分だ。


「だから新しく来る救急の先生にもこの事は良く御理解いただきたいと思っています。『俺のERはこうだ』とか『救急はこうあるべきだ』とか言わずに、とにかく対応する、その部分を大切にすべきだと」


ひときわ大きく頷いていた副院長が発言した。


「なるほど先生の言いたいことはよく分かりました。私も全面的に賛成します」


この話の流れからすると、話題が切り替わるということだ。

そして全く違う方向からの質問が来た。


「総診の重要な機能の1つに難病奇病への対応があると思うのですが、何かお考えがありますでしょうか?」


(次回に続く)

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