第701話 面接試験をする男
オレはよく看護学校の入学試験で面接官を頼まれる。
とはいえ最近の少子化だ。
よほど変な人でない限り、面接で落とすことは滅多にない。
だから受験生に対して込み入った質問は避けている。
今回もそれぞれの履歴書に記入された趣味、特技、得意科目などの中から答えやすそうな事を尋ねる事にした。
最初の受験生は高校3年生。
趣味は映画観賞とある。
ということは映画の話題なら答えてもらえるだろうか。
「では、これまでに観た映画の中から印象に残っているものを教えてください」
「あの、ええっと」
高校3年生程度だと、自分の考えをうまく言葉にまとめる事のできる人間は少ない。
「落ち着いて答えてもらっていいですよ」
「ええ、あの……
聞いた事のないタイトルだ。
「じゃあ、映画の内容とどのような所が印象に残ったのかを教えてくれますか?」
「内容は……未知のウイルスが拡散して人類が滅亡の危機に陥るというものです」
「なるほど」
それならリアルタイムで起こっている事だともいえる。
「それで……私はブラッド・ピットのファンなので」
「ブラッド・ピットが大活躍するわけ?」
「大活躍というより、精神病の患者さんの役なんです」
後で調べてみると1995年の作品のようだ。
「ブラッド・ピットというと『トロイ』とか『フューリー』とか。どっちかというとマッチョな役が多いような気がするけど」
「ええ、そうなんです」
「でも、
他の試験官ばかりか受験生にまで笑われてしまったぜ。
でも、あのブラッド・ピットももう還暦なんだな。
別の受験生はキャビン・アテンダントを目指していたそうだ。
でも諸般の事情で諦めることになった。
だから今度はナースを目指すのだとか。
「今まで勉強してきた事は決して無駄にならないと思いますよ。外国人の患者さんが多くて英語が話せると重宝されるし、人を相手にする仕事だし」
試験をするはずが、ついアドバイスをしてしまった。
でも、彼女の立ち居振る舞い、喋り方、目の配り方なんかは完璧だ。
もうアマチュアの中に1人だけプロが混ざっている、そんな感じだった。
こういう人が受験生に面接試験の指導をしたらいいんじゃないか。
でも、臨床現場ではどうだろう。
患者に暴言を浴びせられた時にも自分を保つことができるか?
むしろキャビンアテンダントの方が、そういう対応は得意なのかもしれないな。
面接試験も色々考えさせられて面白いもんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます