第671話 週80時間働く男 3

★ 読者の皆様、新年おめでとうございます。

 本年も1日1話のペースを崩さず、11月末頃に通算1000話に到達したいと思っているのですが、果たしてうまくいくのかどうか。

 ともあれ、本年もよろしくお願いいたします。

 2024年1月1日 hekisei



(前回からの続き)


 令和の今になって自分が研修医やレジデントをやり直すとした場合、「医師の働き方改革」にどう対処するか。

 そいつが問題だ。


 ここでは労働という言葉の中に勉強も含んで話をする。

 なぜなら、医師の仕事の中に占める勉強の割合は少なくない上に業務との境界が曖昧だからだ。


 オレがレジデントなら研修医にこう回答するだろう。


 まず、週40時間程度の労働では全然足りない。

 その程度だったらルーチーンワークを済ませているだけだろう。

 お前はペーパードライバーでいいのか?


 自分で勉強したり指導医に訊いたりして勉強を重ねてこそまともな医師になれる。

 そのためには週80時間必要だ。

 前にも言ったが、これは労働+勉強の時間ということになる。

 もし病院の規則で週60時間以上職場に居てはいけないのだったら、家に帰ってから後の20時間を補え。


 えっ、「その20時間は超勤につけていいんですか」って?

 ダメに決まっているじゃないか、どっからそんな発想が出てくるんだ。


 じゃあ、家で勉強しちゃあいけないって事でしょうか。

 アホか、お前は!

 医師免許証を持っているだけのタダの人になりたいのなら好きにしろ。

 でも、命にかかわる病気を治す医師になりたいんだったら、週80時間働け。


 これはオレが決めたわけでも国が決めたわけでもない。

 神様が決めたラインだ。


 法律がどう変わろうが、まともな医師になるための勉強量は変わらない。

 なんども言うが、それは週80時間だ。


 ただし週80時間以上働いたりすると、心か身体のどちらか若しくは両方を壊すから、それ以上の無理はするな。


 もう1つ。

 週80時間働いたからといって必ずしも1人前の医師になれるとは限らない。

 脳外科でいえば、週80時間の修業を積んだうちの一部が術者になれる、という事だ。

 そもそも週80時間の修業に耐えられないようなら、術者を目指すのはやめて他の道を探せ。


 だからオレから研修医へのアドバイスはこうなる。


 多くの症例に恵まれ、いい指導が受けられる環境にいるなら、精一杯働け。

 もちろん、超勤か自己研鑽か、書類上の辻褄は合わせておかなくてはならない。


 雑用で消耗していくだけの忙しい病院だったら仕事に入れ込む必要はない。

 適当に手を抜いて力を溜めろ。


 あまり症例がなく暇な施設だったら、off-the-job のトレーニングに精を出すといい。

 外科解剖講習会とか手術手技講習会とか、そういう所で腕を磨け。

 家でじっくり教科書や手術書を読むのもいいと思う。


 研修医には自分がオリンピックを目指すくらいのつもりで頑張って欲しい。

 オレたちに求められる努力はオリンピック選手より上とは言わないが、決して下ではない。

 そして、もしも本当に大切な人が難しい病気になったりしたら、そんな時には是非とも頼られる存在になってやれ。

 そのための修業は辛く苦しいが、損得を考えずにやり抜こうぜ。


「男なら、抜く抜かないにかかわらず鞘の中の刀は常に研ぎ澄ませておけ!」


 確かそんな諺があったような気が……


(「週80時間働く男」シリーズ 完)

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