第958話 あちこち悪い男

 墓参りのついでに従兄いとこに会ってきた。

 なんと、心臓と肺が悪くて貧血もあるのだそうだ。


「なんかブルガダかもしれない、とか言われちゃって」

「えっ!」

「『血縁者に突然死した人はいませんか』ってかれたんだけど」

「いわゆる心臓突然死って人はいないけど、もちろんクモ膜下出血や急性心筋梗塞はチラホラいますよ」


 ブルガダというタイプの不整脈は、若者が寝ている間に死んでいた、という形で発覚するのが典型的だ。

 そして、遺伝的関与があるとされている。


 が、ブルガダの中にも種類があり、危険性の低いコーブド型と危険性の高いサドルバッグ型に分れる。

 担当医のリアクションから推測すると前者だったのだろうか。



「この前、血痰けったんが出ちゃって」

「ええっ!」


 奥さんの言葉に再度オレは驚いた。


「CTをったら何かあるという事で、肺癌か結核か非結核性なんとからしくて」


 非結核性抗酸菌症、いわゆるMACって奴だな。

 3つの中から1つ選べと言われたらこいつを取るな、オレなら。


「今は痰を調べているところなの」


 結果が出るまでちょっとかかるだろう。



「それで最近は息が切れるようになってね」

「最近っていつ頃からですか」

「2ヶ月くらい前からかな。椅子から立つのは出来るんだけど、寝床からいきなり立つのができなくて」

「ちょっと、ちょっと」


 一体それは?

 心臓か肺かそれとも……


「ヘモグロビンをはかったら6.9だったのよ」

「えええっ!」


三度みたび、驚かされた。 


「それ、輸血がいるかも……」

「胃カメラも大腸内視鏡もやってもらったんだけど、何も見つからなくって」


 淡々と語る奥さんの表情がかえって不気味だ。


「次は小腸を調べようかって話になっているんだけど」

「でも、小腸病変なんかそんなに多くないですからね」

「先生もそう言ってたのよ」

「血液疾患かな。じゃあ次は骨髄穿刺マルクか」


 消化器疾患も血液疾患もオレは詳しくない。


「前に便が黒くなった事があるんだけど、何か関係あるわけ?」


 今度は従兄いとこかれた。


「もちろんありますよ。その場合はやっぱり消化管出血の可能性が高いですね。骨髄穿刺なんかやっている場合じゃないかも」

「そういうのを区別する方法があるの?」

「うーん、1つの方法は血液検査の中のBUNが上がっているか否かですかね。BUNが高くなっていたら消化管出血の可能性が高くなると思いますけど」


 便が黒いというのはかなり有力な訴えだ。

 冷静に考えればやはり消化管出血だろう。

 そうすると次の一手はカプセル内視鏡か?



 しかし心臓も悪い、肺も悪い、貧血もあるって。

 これ、どこから手をつけたらいいの?


 というか、オレも気をつけなくてはならない。

 血がつながっているから体質も似ているだろうし。


 人の事を心配している場合じゃないだろ、これは!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る