第730話 役所に行く男
医療費助成支給申請書なる書類を前にしてオレは途方に暮れていた。
これは業務で作成する書類ではない。
重度障害者である身内の医療費の助成を受けるためのプライベートなものだ。
オレの居住している自治体では1~2級の身体障害者手帳を持っているか、重度障害者医療証を持っていれば医療機関にかかった時の医療費が安く抑えられる。
なんと患者負担は1日500円まで、1ヶ月3000円までだ。
納税者の立場としては「そんなに安くていいのか?」と思わないでもないが、患者にとってみれば申請しない理由は何もない。
が、問題があった。
そもそも重度障害者というのはあちこちの医療機関にかかる必要があり、その領収書だけでも膨大な枚数になってしまうのだ。
しかも、患者の住所のある都道府県内の医療機関での診療なら自治体が自動的に計算してくれるが、他府県の医療機関にかかったりしたらその分は自分で申請しなくてはならない。
もちろん重度障害者が自分でそんな手続きができるわけでもなく、オレが代わってやることになる。
とはいえ、これらの書類を揃えて申請書類を作成して役所に持っていくというのは気の遠くなるような作業だ。
昼食抜きどころかトイレにもいけないくらい忙しく働いているオレが何でまた……
愚痴を言っていても誰かが代わりにやってくれるわけではないので、自分でやる事にする。
準備すべき書類は、
医療費助成支給申請書
振込先口座届出書
重度障害者医療証
身体障害者手帳
健康保険証
支給額決定通知や医療費のお知らせ
本人名義の振込先のわかるもの
所得のわかるもの
のようだ。
電子申請もできるが、オレも手続きの詳細が曖昧なので、窓口に足を運ぶことにする。
ただ、どの役所に行くかが問題だ。
市役所の本庁はオレの自宅から車で30分ほどのところにある。
何度か行ったことがあるが善良な市民でごったがえしていた。
支所なる名前の出先機関が市内に2ヶ所あり、その片方は自宅から車で10分。
そちらも何度か行ったことがあるが、何しろ人が少ない。
職員も4~5人なら来庁者も2~3人だ。
簡単な証明書の発行なら支所に行く方が簡単でいい。
が、何種類もの書類とともに医療費助成支給申請書を出すとなると、支所でいいのか?
市のホームページには「支所でも受け付けます」とあるが、単に難解な手続きで窓口の職員を苦しめるだけに終わったりしないかな。
本庁なら部門別に別れており、毎日のように医療費助成支給申請書を扱っているベテランの対応が期待できる。
あれこれ迷った挙句、結局は本庁ではなく支所に行くことにした。
というのも年休を取って朝から書類を作成しているうちに時間がなくなってしまい、選択肢が近くの支所のみになってしまったからだ。
役所に行く以外にもやらなくてはならない雑事は沢山ある。
という事で支所に出かけたわけだが、オレの予想は大きく外されてしまった。
(次回に続く)
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