第731話 役所に行く男 2

(前回からの続き)


 まず戸惑ったことは、支所の駐車場がいつの間にかタイムスになっていたことだ。

 確かに無料駐車場代わりに停める人間がいるかもしれない事を考えると、こっちの方がいい。


 次に、支所の2階が保育所になっていた。

 昨今の少子化問題にもかかわらず保育所が不足している事からも、空いているスペースは活用すべきだろう。


 そして支所のフロアに入ると銀行で見るような番号札を発行する機械が置いてあった。

「証明書発行」「届出」などの目的別に番号を押すと、しかるべき札が出て来る。

 が、医療費助成支給申請は何番になるのか?

 仕方なく「5番、その他」という番号を押した。

「その他」ってことは、支所の職員にとっては想定外ということかもしれない。

 この時点で何だか嫌な予感がした。

 それに前回来たときは来庁者が2~3人だったのが、今回は10人以上になっている。

 職員の数は同じなのに。


 で、オレは待った、そこらへんの椅子に座って。


 来庁者と職員を合わせても20人もいないのに、なんだか賑やかだ。

 待っている人たちは皆が黙っていた。

 が、ワーワーギャーギャーという声が聞こえてくる。


 支所のホールが吹き抜けになっており、その2階からの子供の声だ。

 こちらからは見えないが、子供たちの声がする。

 耳を澄ませていると、泣いている子やダダをこねている子など、色々だ。

 まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられているのだろう。

 ところどころ保育園の先生の声も聞こえてくる。


「コラーッ、やめなさい!」というのは昭和の保母さんだ。

 令和の今は「〇〇くん、ちゃんとしましょうね」と優しい。


 オレは妄想する、この子らを大人しくさせる方法を……


 気がついたらオレの意識は2階の保育園に浮遊し、子供たちの目の前で実体化した。


「ムハハハハ、オレは悪魔おじさんだ!」


 いきなり現れたオッサンに子供たちは一斉にこちらを見る。


「なにーっ!」

「あくまおじさん?」


 もう大騒ぎだ。

 大人しくさせるどころか余計にうるさくなった。


「お前らが静かにしないと先生をさらっていくぞ!」


 そういってオレは茫然としている先生の手を軽く引っ張った。


「やめろーっ!」

「返せー!」


 そう勇ましく叫ぶやつもいれば泣き出す子もいる。


「君たち、乱暴はよくないよ」


 オレは少し狼狽えたふりをした。

 子供たちは調子に乗る。


「なんとかチョーップ」

「かんとかパーンチ!」


 口々に叫びながら攻撃してくる。


「ウウーッ、やめてくれ」


 そう言いながらオレは弱ったふりをした。

 ワケのわからないオモチャを投げつけてくる奴もいる。

 オレはついに倒れたフリをした。


「助けてくれーっ」


 倒れながらオレは泣く真似をした。

 子供たちのチョップやパンチはますます激しくなる。


 引っかかったな、ガキどもめ……

 ここからが大人のフェーズよ。


「ええーん、ええーん。先生、助けてください」


 そういってオレは先生に手を差し出した。

 保母さんもなんかノリのいい人のようだ。


「ごめんなさいね、悪魔おじさん」


 そういいながら優しくオレの手を握ってくれた。


(次回に続く)


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