診察室のトホホホホ

第177話 何でも10にする男

学生時代、オレは時々サーキットで走っていた。

高速コーナーなんかは正直、怖（こわ）い。

怖いけど面白い。

綺麗な四輪ドリフトで曲がれたときの気分は最高だ。

でも市街地ではもっぱら安全運転を心掛けている。

ある意味、サーキットより危険だからだ。

そのため、車間距離をやや長めにとることが多い。

そのせいで良く割り込まれる。

さっきも黄色ナンバーの軽自動車が強引に入ってきた。

オレは軽くブレーキを踏む。

もちろん、こういう時にカッとしてはならない。

頭を冷静に保つための秘策……が、オレにはある。

ナンバーだ。

さっきの軽（けい）のナンバーの下4ケタは「8569」だった。

これで「10」を作る。

うーん、「8+5+6-9」か。

数字の並べ替えなしにできたぞ。

おっと、今度はタクシーに割り込まれた。

もう少し車間距離をとった方がいいと思うけどね。

今度は「3443」だから、多少のヒネリがいる。

「(34-4)÷3」でいっておこうか。

3と4を引っ付けて34にしてもいいのかって？

まあ、大目に見てくれ。

4ケタ数字で10を作っていると腹を立てる余裕がない。

「0208」なら「0+2+0+8」

「7248」なら「7x2+4-8」

「9064」なら「9x0+6+4」

「9668」 だったら「 (9-6)x6-8」か。

なかなか快調だ。

もう、どこからでもかかって来なさい。

「7547」だったら「5+4+7÷7」でどうだ。

ちょっと数字の並びを変えてしまったけどな。

待てよ、「57-47」ならもっと簡単だ。

渋滞中も前後左右のナンバーを片っ端から10にする。

いい時間つぶしになってイライラしない。

助手席の妻にも勧（すす）めてみたら……なぜか変人扱いされた。