第565話 英語習得を工夫する男
記憶は2つに分れる。
「エピソード記憶」と「手続き記憶」だ。
手続き記憶?
なんじゃ、そりゃ。
誰でもそう思うだろう。
元の英語では procerural memory という。
これを直訳したら「手続き記憶」という不可解な医学用語になってしまったのではないかと思う。
他の日本語訳としては「技能記憶」というのがあり、そちらの方がよほどイメージを
技能記憶(=手続き記憶)というのは、泳いだり楽器の演奏をしたりといった身体的な記憶だ。
一旦泳げるようになったり楽器の演奏ができるようになった人は、途中に数年間のブランクがあってもそのスキルを失くすことはない。
それを技能記憶、つまり手続き記憶と呼ぶ。
技能記憶の対義語は「エピソード記憶」になる。
こちらも英語の episodic memory を直訳したものだ。
日本語での言い換えとして「陳述的記憶」や「宣言的記憶」がある。
容易に想像できるように、エピソード記憶は体で覚えるのではなく言葉を使って頭で覚えるものだ。
こちらは知識をベースとしているので、例えば「動眼神経麻痺の3大症状は眼瞼下垂、複視、瞳孔散大である」といった記憶になる。
以下、2種類の記憶を技能記憶とエピソード記憶と呼ぶことにする。
さて、オレが常々思っているのは、母国語を話したり書いたりする時にはエピソード記憶だけでなく技能記憶も使っているのではないか、という事だ。
口や手が言葉を覚えていればこそ、無意識に喋ったり書いたりすることができるような気がする。
近所の人に葉書を書くときなんか、宛先に相手の住所を書くつもりで間違えてしまったりする。
「〇〇県△△市××町」のところまでが一緒だと、ついうっかり自分の住所を書いてしまった事がこれまでに何度かあった。
おそらくオレの右手が自分の住所を覚えているからだろう。
喋る時も長い医学用語なんかを噛まずに言えるのは日頃から口にして、技能記憶として覚えているからではなかろうか。
例えば「
が、オレは普段から使っているからスラスラ出てくる。
さて、母国語を口と手で覚えているのであれば、外国語も口と手で覚えるべきではなかろうか。
特に口だ。
よく使うフレーズを何度も何度も発音して、何も考えなくても口から勝手に出て来るようにする。
外国語習得において口を動かす事は大切だし、オレが言わなくてもあちこちで強調されている。
実は、口だけでなく体全体を動かしたら、もっと外国語習得が速くなるんじゃないか、とオレは思っている。
というのも、アメリカ在住時代、卓球とかタッチフットとかスポーツをやりながら喋っていると相手の言っている事が明瞭に聴きとれる、という経験を何度もしたからだ。
自分が話すだけでなく、聴きとりも容易になった。
しかも何年も経ってから内容を思い出すことができる。
海外で活躍する日本人サッカー選手が何ヶ国語も話たり、相撲の外国人力士が日本語を流暢に喋っているのを聴くと、オレの経験を裏付けてくれているような気がする。
この現象に医学的な理論づけをするなら、技能記憶もスポーツも小脳という共通部位を使うからではなかろうか、と思う。
つまり、スポーツで一時的に小脳が活性化され、それが技能記憶を通じた外国語習得の助けになっている、という理屈だ。
オレ自身、英語習得には今でも苦労させられているが、何らかの形でスポーツと融合させて画期的な外国語学習法を開発したいものだ、と思う。
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