第893話 1型糖尿病と戦う男 1
糖尿病には1型と2型がある。
大半が生活習慣病である2型糖尿病だ。
1型はごく少数。
難儀なことに生活習慣とは関係なく小児に発症する事が多い。
だから子供の頃からインスリンを使った闘病生活を行わなくてはならない。
たとえ血糖が高かったとしても取り敢えず症状はない。
が、その状態を何十年も放置していると、いわゆる「シメジ」が起こる。
「シ」は神経で、痺れや痛み、立ちくらみが発症してしまう。
「メ」は眼の症状で、進行すれば網膜症によって失明する。
「ジ」は腎臓で、今や透析患者の多くが糖尿病の進行によるものだ。
この他にも
だから数値がすべて。
無症状であっても血糖コントロールが必須だ。
特に1型糖尿病は子供の頃から血糖測定とインスリン注射を毎日しなくてはならない。
肉体的負担もさることながら、精神的に辛いものがあるのだと思う。
これが受験勉強なら頑張ったら頑張っただけ他の人より上に行くことができる。
でも1型糖尿病の患者は単に人並みの生活を送るためだけに闘病生活を続けなくてはならない。
しかも一生続く。
その大変さはオレなんかには到底想像することができない。
さて、1型糖尿病は稀少疾患だ。
オレ自身、リアルで会ったのは3人だけだ。
でも、この3人とも個性的で面白い人たちだった。
本シリーズでは彼らの紹介と、劇症1型糖尿病に関する秘話を述べたい。
最初の1人は妻の親戚の男の子だ。
何十年も前の事。
彼の大学卒業が近づいてきたが、ただでさえ就職難の時代。
履歴書に1型糖尿病の記載があるだけで
障害者雇用などという考え方はまだまだ世の中に浸透しておらず、企業にとっては単なる厄介者扱い。
彼も両親ともすっかり就職を
が、奇跡的にある会社に就職が決まる。
何とインスリン製剤を作っていた製薬会社だ。
世界で何番目かに大きな外資系の会社。
企業理念からしても、さすがに1型糖尿病を理由に落とすわけにはいかなかったのだろう。
こっちはインスリンのヘビーユーザーでもあるわけだし。
かの男の子は順調にオッサンになり、現在は3児のパパなのだそうだ。
「やっぱりハンディキャップというのは克服するより利用するもんだな」とオレが言うと「それ、ちょっと違うんじゃないの?」と妻に
2人目はオレが勤務する病院の同僚医師だ。
名前を仮に
つまり闘病と仕事が一体化しているわけだ。
もう50歳を過ぎているが、たまたまオレと席が近いのでよく愚痴をきかされる。
が、自らの病気に関する愚痴は1度もなく、
ちょうど長男の受験が終わったとかで、恐る恐る結果を
これが私立大学の医学部だったら経済的に厳しくなる。
でも、まだまだ2番目と3番目の子が控えているので油断できない。
そのためか
さすがに自分の持病の治療を患者にも
にもかかわらず、御自分の事はあまり病院に評価されていないのではないかという妄想を持っている。
だから「何を言っているんですか。先生の1型糖尿病外来こそウチの病院の看板じゃないですか!」と定期的に励ますのがオレの役割の1つだ。
そう言って励ましてあげると「そ、そうかな」と機嫌を取り戻す。
実際、100人以上の1型糖尿病を
本人によればインスリンポンプの設定をちょっといじると簡単に痩せることができるのだそうだ。
前は体型を気にしていなかったが、患児に「先生、太り
「僕も子供の頃に『何であの先生は太っているの?』と主治医の陰口を言って母親を困らせていたからなあ。やっぱり糖尿病担当医が太っていたら患者さんも医者の言うこと
壱潟先生にとっては闘病よりも俗世間の
そして3人目の1型糖尿病患者は内分泌内科のレジデント。
彼女の名前は仮に
(次回に続く)
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