第568話 文章を削る男

 医師の仕事の1つに学会発表がある。

 自分の経験した症例や研究成果を公表する場だ。


 まず、本番の数ヵ月前に800字ほどの抄録しょうろくを学会に提出する。

 それが採択されれば本番だ。

 10枚ほどのスライドを使った5分ほどの口演発表を行う。


 問題はこの800字ほどの抄録だ。

 言いたいことを過不足なく伝え、アピールポイントを強調しなくてはならない。

 が、得てして初心者は抄録が長くなってしまう。

 そしてアピールすべきポイントが絞り切れない。


 だから指導にあたる上級医は、研修医の書いてきた抄録を削らなくてはならない。

 だいたい2000字とか、長いだけでまとまりのない抄録を持ってこられることが多い。

 研修医自身は力作だと思っているが、指導する側が読むと贅肉ぜいにくだらけだ。

 こいつを削って削って800字に収まるようにする。


 不思議な事に削るほど文章全体がシャープになっていく。

 アピールポイントが絞られ、読者の心に響くものになる。


 学会の抄録をはじめとして、職場や役所に提出する文書も要領はすべて同じ。


「何が言いたいか分からないぞ」

「長いものは駄目だ」

「A4で1枚におさまるようにしろ」


 何度その台詞を言われ、そして自分も言ってきた事か。

 ちゃんと数えた事はないけど、たぶん一千回と一万回の間くらいだろう。


 そうやって無数の文書作成を行ってきた事が、今のカクヨム執筆活動につながっているのかもしれない。


 簡潔でありながらアピールポイントを強調する。

 読者の立場にたって文書作成を行う。


 業務用文書作成も小説の執筆も基本は同じだという気がする。



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