第421話 上皇陛下の論文を持つ男

 遠い昔のある日の事。

 脳外科医局のオレのメールボックスにA4サイズの封筒が入っていた。

 裏には「赤坂御所」の文字が……


「なんじゃこりゃ!」


 オレは仰天した。

 なんでまた御所から封筒が来るのか?


 で、中を見ると当時の天皇、明仁陛下の論文の別刷リプリントが入ってた。

 それで思い出した。


 天皇陛下の論文*が Science に出たというニュースがあった事を。


*Akihito (1992) Early Cultivators of Science in Japan. Science, 258:578-580


 それで、物好きなオレは別刷リプリントの送付を依頼していたのだ。

 すっかり忘れていた。


 それにしても若さというのは恐ろしい。

 おそおおくもかしこくも、天皇陛下に別刷リプリント送付を依頼するとは。


 もちろん、この別刷リプリントは「テムズとともに」の初版本とともに我が家の家宝となっている。



 とはいえ、家宝になり得ない皇室関連のものもこの世には存在する。


 その昔、入院患者に渡された皇室カレンダーだ。

 1枚めくるごとににこやかな表情の天皇陛下や皇太子殿下が出てくる。


 こういうカレンダーってのは勝手に作っていいのか?

 肖像権とかはどうなっているんだ!


 そう思わなくもなかったが、つい受け取ってしまった。


 実際、持ってしまうと分かるが、非常に困ったことになる。

 普通のカレンダーなら月がかわるごとに1枚破って捨てればいい。

 が、皇室カレンダーですよ、皇室カレンダー!

 おいそれと破って捨てるわけにはいかないでしょ。


 結局、どう扱ったのかは自分でも憶えていない。


 調べてみると世の中には結構な種類の皇室カレンダーがあるみたいだ。

 有難いものだけど、皆さん、月日つきひが過ぎたらどうしているのだろうか?


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