第630話 生老病死を語る男 3

(前回からの続き)


 自分がフレイルか否かを知る1つ目は指輪ゆびわっかテストだ。

 両手の親指と人差し指でっかを作る。

 この指輪ゆびわっかの中に自分のふくらはぎが通るかどうか。

 もしすんなり通れば筋肉量が足りていない。

 だから、フレイルの可能性がある。

 両手で作った指輪ゆびわっかよりふくらはぎの方が太ければ大丈夫。


 2つ目は歩く速さ。

 毎秒1メートルが目安めやすになる。

 時速に直すと3.6キロになるので、少しゆっくり目だ。

 日本中どこの交差点の信号でもこのスピードで渡り切れるように設計されている。

 もし、渡り切れないようならフレイルの可能性がある。


 そして3つ目は片足立かたあしたがりテストだ。

 40センチの高さの椅子や台から手を使わずに片足で立ち上がることができるか否か。

 もし立ち上がれなければフレイルの可能性がある。


 実はオレ自身、この片足立ち上がりテストに合格しなかった。

 なので、情けない事にフレイルかもしれない。


 さて、フレイルの予防は三本柱と言われる。

 つまり栄養、運動、社会参加だ。

 これらにも言及しなくてはならないが、オレの講演の後には管理栄養士や理学療法士りがくりょうほうしの講演が控えている。

 彼ら専門家がそれぞれに栄養や運動を語ってくれるのであれば、オレの話すことは残りの部分。

 つまり、社会参加と物忘れ対策あたりになる。


 栄養や運動だけでなく、人との関わりもフレイルになりやすいか否かを決める要因だ。

 たとえば、閉じこもって外出せず他人と交流しない独居老人どっきょろうじんはフレイル一直線なのだとか。

 で、社会参加のコツとしては、こまめに外出、楽しく地域貢献、無理なく切れ目なく、の3つが推奨されている。


 「無理なく」と「切れ目なく」は表裏一体ひょうりいったい

 60代でできることが70代になると難しくなる、というのは自然の摂理だ。

 だから、子供たちに読み聞かせをしている人が、年を取るにつれて自分たちの読書会に切り替える、というのも1つの方法だろう。

 決して無理をせず自分にできる事をやる一方で、途中でやめずに何らかの社会参加を続けるのがコツなのだそうだ。


 まあ、マンションの管理組合や自治会の活動なんかも社会参加としてはいいんじゃないか?

 妻が全然やらないので、オレがもっぱらこれらの活動を通じて近所付き合いをやっている。

 いささか早すぎるがフレイル対策にもなるから、オレにとっては一石二鳥だ。


 リタイアして時間ができたらやりたい事ってのは、オレには沢山たくさんある。

 医学の勉強や英会話、筋トレや楽器、そして料理だ。

 もちろん小説の執筆も続けたい。

 今は仕事が忙しすぎてできたもんじゃない。


 こういった話が高齢者主体の聴衆に響くだろうか?


 でも、物忘れ対策というのは皆が知りたいんじゃないかな。

 というのも脳外科外来で最も多い質問の1つだからだ。


(次回に続く)

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