第631話 生老病死を語る男 4

(前回からの続き)


 そこでオレは物忘れ対策を述べることにした。

 もう脳外科外来で数百回は繰り返した内容だけど。


 オレが勧める物忘れ対策は3つある。



 1つ目は、頭を使うってこと。


 例をあげると脳トレや数独すうどくだ。

 これらにはボケ防止のエビデンスがあるとか無いとか色々言われている。

 そんな事はどちらでもいい。

 とにかく頭を使う事が大切だ。


 さっきオンラインで脳トレをやってみたらランキングが出た。

 なんとオレは平均以下だった、トホホホホ。

 こうなったら医学の勉強とか英会話とかに専念するか。

 カクヨムの執筆活動も頭にいいかもしれない。


 また、オレの外来患者の1人、80代の女性は健康麻雀をやっているとか。

 健康麻雀とは「賭けない、飲まない、吸わない」というもの。

 確かに賭けたり吸ったりするから殺伐さつばつとした「麻雀放浪記」の世界になってしまうわけで、やはりゆるい雰囲気の健康麻雀が1番。

「そんなものは博打じゃねえ!」と言われるかもしれないが、むしろギャンブルであっては困る。


 頭を使うということでは麻雀に勝るゲームもそう沢山はない。

 だから脳の活性化に良さそうだ。

 もっともオレの外来患者の寿司職人は麻雀より先に料理の方が出来なくなった。

 麻雀があまり認知症予防になっていないという例かもしれない。


 ちなみにオレ自身、麻雀はからっきし駄目だ。

 どうしても自分の手ばかりにこだわって大局を見ることができない。


 何にせよ頭を使うことはボケ防止になる。



 2つ目の物忘れ対策は部屋の整理整頓をするということ。


 もの覚えが悪くなった人に限って部屋の中が散らかっている。

 これまでの人生、亡くなった親戚の部屋を整理していて、値札のついたままの服とか箱から出していない健康食品とかにどれだけ遭遇したことか。

 視界に入る物を減らすことによって、自分の頭にかかる負担を減らすべし。


 あと、モノが少ないとお金が貯まる。

 というか、金持ちほど部屋がスッキリしており、貧乏人ほど散らかっている。

 テレビドラマなどで貧乏を演出するときには、沢山のモノを雑然と置いておくそうだ。

 確かにニュースなどで「何でこんなにお金が足りないの!」と不満を言っている人の部屋は例外なくモノだらけ。

「先に掃除をしたら?」と言ったら怒られるだろうか。



 そして3つ目の物忘れ対策はスマホの活用だ。


 スマホを使って写真を撮ったり録音したりアラームを鳴らしたりする。


 たとえば空港などの広大な駐車場に車を停めたとする。

 用事を済ませて戻った時に車が何処にあるか分らなくなってしまうことも珍しくない。

 だから駐車した時には周囲の風景を含めて自分の車の写真を撮っておく。

 そうすると「4階の189番」とか、写真を見ればすぐに駐車位置が分かる。


 また会議なんか直後に5分ほどの要旨を録音したりする。

 医療事故調査の聴き取りなんか、その時に録音しておかないと、その後の何年も憶えておくことは出来ない。

 これは他の会議でも同じ事。


 そしてアラームも愛用している。

 15時から会議、16時から打ち合わせ、17時半にアポと予定が入っていた場合。

 それぞれ14時55分、15時55分、17時25分にアラームが鳴るようにしておけば忘れない。

 逆に、アラームがなかったら必ず1つは忘れてしまう。

 複数のアラームを設定できるのがスマホの良い所だ。


 こういった話は高齢者の心に響くだろうか?

 そもそもスマホ自体を使わない人も多いかもしれない。

 でも、オレにとってスマホってのは秘書みたいなもんだ。

 スケジュールもオンラインカレンダーを使っているし。


(次回に続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る