第326話 ゴミ箱扱い上等!の男

「救命センターが1~2次救急もやるという話があるそうですよ。そうすると総診は要らなくなるんじゃないですかね」

「いやいや、要らなくなるはずはないね。何といっても総診はゴミ箱だから」


朝の割り付けの時にそんな話が出た。


ウチの病院では3次救急は救命センターが、1~2次救急は総合診療科そうしんが対応している。

同じ病院なのに救急が2つに分かれているというのも変だ。

だから統合するかもしれない、という話が出てきた。

なら、総診はなくなるのか?


総診にかかわっているものとして断言する。

決して総診がなくなることはない。

なぜなら、誰も診たくない患者、誰が担当すべきか分からない疾患というのは厳然として存在するからだ。


たとえば腹痛。


普通に考えれば消化器内科だろう。

痛いのは胃か腸かあるいは胆嚢や膵臓かもしれない。

いずれにしても腹腔内臓器で、その多くは消化器だ。


しかし、原因不明の腹痛というのもある。

あるどころか、結構多い。


CTでもMRIでも超音波でも内視鏡でも血液検査でも原因不明。

でも患者は腹が痛いという。


もはや消化器疾患かどうかも分からない。

だから泌尿器科や婦人科に応援を求める。

それぞれの診療科がそれぞれに調べても原因不明。


そうすると皆が言い始める。

「もう勘弁してくれ」と。


さらに言う。

「俺たち、本来の仕事である癌治療に専念したいんだけど」


その気持ちは良く分かる。

新しい診断法、新しい抗癌剤、新しい治療法。

日進月歩の癌治療についていき、あるいはリードするためには大変な努力が必要だ。

原因不明の腹痛にかかわっている暇はない。


そんな時こそ総合診療科。

「当科的には原因不明なので、貴科にて精査よろしくお願いいたします」

そういう丁寧なコンサルの文言とともに患者がブン投げられてくる。


総診はゴミ箱的存在、トイレ的存在といってもいい。


だから総診が要らなくなる事はない。


「消化器も泌尿器も婦人科も何ともないって。それなら大動脈か腸間膜かも?」と考え、臓器から攻める。

あるいは「ひょっとして膠原病や神経疾患なんかでも腹痛が起こるのだろうか?」と思って、病態から攻める。


誰も対応しないのなら総診が対応してやろうじゃないか。

そこに美学を見いだせるか否か。


もし「ゴミ箱扱い上等!」という若者がいたら、ぜひ総診に来てほしい。


……って、そんな若者はいないか。

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