第464話 車で煽られる男

 新幹線の駅に妻を迎えにいく。


 駅周辺は路上駐車だらけで通行にも支障を来す。

 こういうのこそ駐車違反を取り締まって欲しい。

 特に高価な外車でありながら駐車場代をケチっているのは情けない。

 オレなんか国産だけどちゃんと料金を払って駐車場に停めているぞ。


「駐車監視員のコスプレをやってみた」というユーチューバーがいたら面白いのに。

 あの緑色の制服に似た服装で駅周辺を歩き回ったら、クモの子を散らすように路駐ろちゅうの車が逃げ出すんじゃないかな。



 時間通り妻をピックアップして家に向かう。

 走行車線の車はやけに遅い。

 が、オレは追い越し車線を飛ばして前に出る。

 律儀に制限速度60キロを守っていたらいつまでっても家に着かない。


 おっと、走行車線の車列の先頭に白黒のパトカーがいる。

 大型トラックの陰になって見えなかった。

 皆が制限速度を守るはずだ。


 オレもパトカーの右斜め後ろにつけて追い越さないように注意する。


 と、オレの後ろにピタリと別の車がついてあおってくる。

 角度的にパトカーが見えないのだろう。

 道を譲ってもいいのだけど、あいにく黄色線で車線変更ができない。


 後ろの車は右に寄ったり左に寄ったり、随分イライラしているみたいだ。

 でもね、パトカーを抜かしたら捕まるのはオレだから。

 煽るのは勘弁して欲しい。


 ようやく黄色線が終わって白の破線に変わった。

 車線変更してパトカーの後ろにつける。


 後ろの車はエンジン音も高らかにダッシュする。


「ほら、パトカー。捕まえてやれ!」

「何言ってんのよ」


 妻にあきれられる。


 が、ダッシュしかけた車もようやく状況がめたようだ。

 あわててスピードを落とした。

 オレもこのんで法定速度を守っていたわけじゃない。


「オラオラ、パトカーを抜かしてみろよ」

「ちょっと!」


 妻がいさめてくる。


「よし、今度はオレが後ろにつけてあおってやろうか。さっきと逆の立場だ。いけるもんならいってみろ」

「やめなさいよ、余計な事」


 もちろん、口で言うだけで実際に煽ったりしない。

 単純に危険だからだ。

 むしろ一般の車に比べてオレはいつも車間距離を長めにとっている。


 先頭にパトカーがいるせいで、2車線の車は皆、お行儀がいい。

 制限速度を守るばかりか車間距離もちゃんと取っている。


 もしかしてパトカー風にコスプレした車もあっていいかもしれない。

「自家用車をパトカー風に塗装してみた」とか「サイレン風の音を鳴らしてみた」というユーチューバーが現れないかな。


 世間様に迷惑をかけて注目を浴びるより、よっぽど面白いと思うんだけど。


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