第778話 手足の浮腫む女

 最近のオレの総合診療科そうしん外来も定常状態に入った気がする。

 総合診療科の新患の診療の流れというのは大体こうだ。


 まずは、地域医療連携室を通じて近隣医療機関から患者の紹介がある。

 大抵はパッと考えて診断のつかない奇怪きっかいな症状だ。

「紹介元の医療機関で診断がつかなかったわけだから、オレが診断をつけられなかったとしても仕方ないよな」とえずオレは居直いなおる。


 次に診療情報提供書とともに患者が来院する。

「歩いて外来受診するくらいだから、今すぐ死ぬような病気じゃないよな」と、さらにオレは居直る。


 診察……といっても、問診がメインだ。

 オレは身体診察を必要最小限にしている。

 病歴聴取をすると、込み入った訴えが多い上に中身が全然整理されていないことがほとんどだ。

 だからひたすら事実を時系列に並べ直す。

 この過程ではいた事にキチンと答えてもらえない高齢者のお相手が1番つらい。

 思わず「小学生からやり直せ!」と怒鳴どなりたくなる、言わないけど。


 とはいえ、症状そのものは「ウーン!」と頭をひねりたくなるような面白いものが多い。

 簡単にいえばパズルみたいなもんだ。

 でも、その場で解けることは少ない。

 なので「とりあえず検査をしましょう」といって、血液検査や画像検査をオーダーする。

 そして、検査結果のそろう1週間後か2週間後あたりを再診日と決める。


 再診日までの間にあれこれ調べたり他の医師に相談したりして自分なりの診断を固める。

 この場合、相談する相手はこういった「パズル」が好きな医師であれば、特に専門は問わない。


 再診日になったら患者に自分なりの診断をげる。

 ただし、この診断が正しいかどうかは必ずしも確信を持てないので数ヵ月ごとにフォローする事が多い。


 大体こんな感じだ。


 1つ1つの「パズル」は面白いが、真面目に取り組むと疲労困憊ひろうこんぱいしてしまう。

 だから新患は1日に2人までにしてくれ、と地域医療連携室に頼んでいる。


 それでも午前中の診察時間が足りなくて14時からの会議に遅れてしまう事が多々ある。

 何年もかかってようやくこうした「型」のようなものを作った。

 もちろん「型」にはまらない症例も少なくない。

 が、そんな時でも「型」からどの部分がどのようにはずれたのかを意識すれば、何とか対処できる。


 というわけで、以下に典型的な総合診療科外来患者の例を紹介したい。


 その日に地域医療連携室を通じて紹介されてきたのは30歳代の女性。

 主訴は手足の浮腫むくみだ。


(次回に続く)

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