第252話 「トホホ」な目にあう男

3ヶ月毎に通院している高齢女性。

軽い内頚動脈狭窄症があるので1年に1回、頚動脈エコーと頭部MRIでフォローしている。

ところが、高血圧も高脂血症もある。

で、言われるままに降圧薬やコレステロールを下げる薬を処方してきた。


近くの健診センターを受診したそうで、そのデータを持ってきた。

確認するとHbヘモグロビンA1Cが7台だ。

これまでは6前後だったので、いよいよ糖尿病の初期段階に入った。

治療する必要がある。


なので患者の自宅から近いクリニックに紹介することにした。

オレがよく知っている先生で専門は内分泌内科だからピッタリだ。

いい機会だから降圧薬や高脂血症の薬もそちらで出してもらってくれ。

こちらは脳外科らしく頚動脈狭窄と頭部MRIに集中したい。

そう説明したつもりだった。


1ヶ月以内にクリニックに行くからということで、薬は1ヶ月分だけ処方した。


が、数時間後に薬局から疑義照会ぎぎしょうかいがあった。

薬が1ヶ月分しか出ていない、と。

そして糖尿病の薬が出ていない、とも。


いや近くのクリニックに紹介して、そちらから出してもらう予定だ。

患者自身が1ヶ月以内に行くといったから降圧薬なんかは1ヶ月分しか出していない。

糖尿病の薬はそちらでもらってくれ、糖尿病薬なんか脳外科医がついでに出す薬じゃない。

電話をかけてきた薬剤師に言ったら、いたく納得している。

「患者さんには私の方から説明しておきます」と言ってもらえた。


そもそも降圧薬とコレステロールの薬は当院で、糖尿病薬はクリニックで、というのにオレは反対だ。

出すとすれば全て1つの医療機関で出すのが好ましい。

さもなくばお互いに処方している薬を一々チェックしなくてはならず、非効率なことこの上ない。


本来オレがすべき事は頚動脈の狭窄率や動脈硬化の性状の確認。

それを踏まえて手術に踏み切るべきかどうかを悩むことだ。

降圧薬の種類を考えていたりしたら本来業務がお留守になってしまう。


次回の外来でどう言ったら理解してもらえるのだろうか?



「脳外科で降圧薬を出してくれってのは、鮨屋すしやでカレーを頼むみたいなものなんですけどね」


以前、別の患者にそう言ってみたこともあったが、「ついでだから湿布と睡眠薬もお願いします」と一蹴された。


これこそ本当のトホホホホだな。


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