第251話 「アホーッ!」と怒鳴る女

最近はリフィル処方を使うようになってきた。


リフィル処方とは、1枚の処方箋しょほうせんを複数回使うというものだ。

たとえば、30日分の薬の処方箋を書いた場合、これを3回まで使っていいですよ、とするもの。

だから患者は医療機関に来ることなく、薬局に3回行くだけで薬を受け取ることができる。


オレなんか、そもそもが90日処方なので、これが180日とか270日になるわけ。

抗痙攣薬こうけいれんやくなんか何年も処方内容が変わらないので90日である必然性は全くない。

だから、外来患者の受診回数を減らすことができる。

これまで9時から13時までの4時間で30人診ていたのが15人に減ったら無茶苦茶嬉しい。


患者にとっても受診回数が減ることのメリットは大きい。

たとえば、てんかん指導料や難病外来管理指導料が毎回算定されている場合だ。

診察回数が減ったらそれも減るので経済的にも助かるだろう。


ちなみに、てんかん指導料は250点なので、3割負担として患者の支払いは750円になる。

難病外来管理指導料は270点なので患者負担は810円だ。


このようなリフィル処方のシステムは最近できた。


例によってリフィル処方が普及しないのは医師会の反対のせいだ、と報道されている。

いい加減に医師会を医師の代表みたいに言うのはやめてくれ。

オレも医師会員だけどリフィル処方には大賛成だ。

会員なんて30万人もいるんだから、様々な意見があるに決まっている。



ところが、診察室で患者にリフィル処方の説明をしていた時のことだ。

外来クラークに言われてしまった。


「先生、薬局によっては対応していないところもあるそうですよ」


なんだと。

それだったら、リフィル処方が普及しないのは薬局のせいじゃないか。


「だから、患者さんに説明しておいた方がいいんじゃないですか?」


知るか、そんなこと。

十分な周知期間もあったし、こっちが合わせる必要なんかあるはずもない。


「もし薬局から疑義照会ぎぎしょうかいがあったら『アホーッ!』と言っといてくれ」

「イヤですよ、そんなの。何で私が言わなくちゃならないんですか!」


ま、そりゃそうだろな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る