第531話 ニートに寄り添う男

 年収2000万円の小説家からのアドバイスを YouTube で聴いた。

 目からウロコの話だ。


 彼は言う。

 ニートに寄り添え、フリーターを全肯定しろ、引きこもりをリスペクトせよ。


 引きこもりをリスペクトだって?

 何を言ってんだ!

 大抵の人がそう思うかもしれない。


 が、彼は売れているラノベを徹底的に研究したそうだ。

 そこで分かったのは、異世界転生やざまあ系というのはニートや引きこもりの妄想をかなえる物語だ、ということ。


 俺の人生がうまく行ってないのは周囲が悪い。

 本当は凄い能力があるんだ。

 人生をやり直しさえすれば女にもモテモテのはず。


 そういうニートの思いを叶えてやるのが異世界転生モノってわけ。


「うんうん、そうだね。君の言うとおりだよ」と、否定せずに聴く。

「君が本気になればハーレム状態のはずだ」と肯定する。

 ニートや引きこもりの願望を引き出し、それを物語にするのが作家の腕だそうだ。


 年収2000万円を達成しているのだから説得力がある。


 確かにニートや引きこもりに説教しても無駄だ。

 努力して現状打破しろと言っても嫌がられるだけ。


 なら、現在の彼らを全肯定して喜ばれる方が意味がある。



 実は医療現場がこの状況にそっくりだ。


 医師になってしばらくの時のオレは、患者に説教していた。

 タバコをやめろ、酒をやめろ、パチンコをやめろ、などと。

 でも、こういう指導は無駄だということが徐々に分かってきた。


「禁煙が無理だったら、せめて家の外で吸いましょうよ。受動喫煙は奥さんや子供さんの健康に悪影響ですから」

「お酒をやめないまでも、ちょっと減らしてみたら? きっと、お金も貯まりますよ」


 アドバイスするにしても、その程度だ。


 オレは説教から「否定しない外来」に切り替えた。

 そういう方針にしてから患者に話が通じやすくなった。



 だから仕事でやっている事を執筆でやってもいいじゃないか。

 ニートや引きこもり達も金を払ってまで説教されたくないだろう。


 ということで「患者中心の医療」ならぬ「読者中心の小説」だ。

 早速、実行してみよう。


とはいえ、これはこれでオレの知らない難しさがあるんだろうとは思う。

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