第530話 夢を覚えている男

 オレは夢を見ていた。

 ずいぶん鮮明なものだ。


 オレは小学校らしき校舎の中を歩いていた。

 陸軍幼年学校だ。

 なぜかそのことをオレは知っていた。


 周囲は独特の制服を着た女子生徒が沢山いる。

 年齢は様々だ。

 小学校低学年くらいから中学生くらいまで。


 その学校を抜けて路地に入った。


 大型トレーラーが狭い道を曲がろうと苦労している。

 1~2回の切り返しの後にうまく抜けていった。


 オレは妻とともに檀那寺だんなでらに到着した。

 玄関からではなく、側面の方から庭に歩いていった。

 和尚さんは不在だったが、奥さんとお母さんが出て来た。


 ここで目が覚めた。


 夢というのは怖いものが多いが、今回はそうでもない。

 目覚めてからどんどん忘れていくということもなく、今でも憶えている。


 何でまた、あんな夢を見たのだろうか。


 1つ心当たりがあるとすれば、姪っ子が結婚する事になったからだろう。

 昨日はお婿さんになる人との顔合わせがあった。

 ごく普通の青年だった。



 普通というのは、実はとても貴重なものだと思う。

 誰でも、何処の家庭でも、何らかの問題を抱えている。


 外来診察の時に患者から聞かされる愚痴は多彩だ。

 病気だけが本人を苦しめているのではない。


パチンコ狂いの亭主。

ひきこもりの息子。

グレてしまった娘。


そんな話ばっかりだ。


若い頃のオレは患者にアドバイスしたり一緒に解決策を考えたりした。

今では耳を傾けるにとどめている。

肯定も否定もせず、単に聴くだけだ。


そういった話を聴いていると「普通」ってのが得難えがたいものだと分かる。


病気になって初めて知るのが健康の有難さだけど、トラブルが起こって初めて分かるのが「普通」の大切さだと思う。


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