第673話 機内から脱出する男

「羽田空港で飛行機が燃えている!」


 そう妻に言われて YouTube を見たオレは驚いた。


 JAPAN AIRLINES と書かれた機体の後部座席からチロチロと炎が見える。

 それが次第に大きくなり飛行機全体が炎に包まれて燃え始めた。


 その原因となったのは海上保安庁の飛行機との接触事故だとのこと。

 繰り返し流される衝突時の映像を見ると、日航機だけでなく海保機の方も炎上していた。


 事故原因は専門家による調査委員会の検証に任せるとして、もし自分が乗客として乗り合わせていたらどうすべきか。

 ネットの書き込みなどを参考にして考えてみたい。


その1:飛行機に乗るときはポケットの多い服を着ておくこと。


 事故で脱出するときは手荷物を持って逃げることができない。

 だから、離着陸の時には財布、スマホ、パスポートなどを服のポケットに入れておくべし。


その2:離着陸の時には靴を履いておき寝ないこと。


 航空機事故の多くは離着陸の時に起こっている。

 その時に眠っていたら何かあった時の対応に遅れが出てしまう。

 走れる靴を履き、目を開けて常に状況を把握し続けることが必要だ。


その3:煙は上にのぼるので姿勢を低くして逃げること。


 今回の事故の機内映像をみると、客室乗務員が乗客に姿勢を低くするよう指示している。

 煙の有毒成分の1つである一酸化炭素は分子量28、空気の主成分である窒素も分子量28、ほぼ同じ重量になるので姿勢を低くする事がどのくらい効果的かは不明だが、直観的には煙を避けた方がいいのだろう。


その4:緊急脱出スライドは垂直に近い事もある。


 映像を見ると今回の日航機は前脚が損傷していたのか、前のめりに傾いていた。

 そのせいで前方の緊急脱出スライドは緩やかな傾斜だったが、後方のそれは地面に向かって切り立つ崖のような角度だった。

 それでも覚悟を決めて滑り降りなくてはならない。

 怖いけれどもスライドの左右の手摺にあたる部分からのライトに滑り面が照らされていて明るかったので、多少は気休めになった事と思う。


その5:スライドで脱出したらすぐに機体から離れる。


 ぐずぐずしていると、すぐ後ろから滑り降りて来た乗客がぶつかってくるかもしれないし、飛行機が爆発するかもしれない。

 他の人は振り返ってビデオを撮ったりしているかもしれないが、オレは走って逃げる。



 以前、患者から客室乗務員の訓練メモを見せてもらった事がある。

 彼女はキャビンアテンダントになりたくて初期訓練を受けていたのだ。


 うろ覚えだけど、メモにはこんな事が書かれていた。


「機材の右側から火が出た場合、お客様を左側の非常口に避難誘導するとともに、右側の非常口の前に立って使用できないようにする」


 乗客に対するサービス訓練よりも非常時の保安訓練の方がよほど力が入っていた気がする。


 オレ自身、今後の人生で飛行機に乗ることも多々あることと思う。

 だから今回の事故を教訓にしたい。

 上に述べた以外では、こんな感じになるだろうか。


・できるだけ通路側の席に座る。

・左右それぞれの1番近い非常口を憶えておき、薄明りでも辿り着けるよう目を閉じて頭の中でシミュレーションする。

・自分で非常口を開けたり、緊急脱出スライドを展開したりできるよう操作を記憶しておく。


 今度からは離陸前の客室乗務員のインストラクションを真剣に聴くことにしよう。

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